欧米各国 政教日記

9話 第一、周遊の目的および太平洋紀行の部 第九、独立を維持するに必要なる元素

1,227字 約2分 2012年10月21日 公開

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 政教子曰く、およそ一国の独立を維持するに、最も必要なるもの三種あり。曰く、言語なり、歴史なり、宗教なり。言語、歴史の必要は、人すでにこれを知る。しかして宗教の必要にいたりては、これを知るものはなはだ少なし。今その必要なるゆえんを述ぶるに、第一に、一般の学術は真理を将来に期し、今後いよいよ進みてこれに達せんことを目的とするをもって、旧を去りて新に就くの性あるものなり。しかるに、宗教はその真理既往に定まるをもって、旧を守るの性あるものなり。今、日本国をして永く日本国たらしむるには、その従来日本国たりし精神、思想を維持するを要す。ゆえに、宗教を維持すれば、この従来の思想を維持することを得るなり。第二に、一般の学術は真理いまだ一定せざるをもって、衆説一致せざるの憂いありといえども、宗教はその説一人の口より出でたるものなれば、衆説相分かるるの恐れなし。これ、宗教の力よく人心民情を連合して、一国の団結を助くるゆえんなり。第三に、宗教は人の感情の上に動き、人の精神の中に入り、一心不乱、鋭意不撓の気風を養成するに最も適したるものにして、したがって一国の独立を助くるに必要なるものなり。第四に、宗教の思想は種々その形を変じて、世間の習慣を構造し、社会の礼節を支配し、そのほか国家の秩序を保ち、独立を全うするに欠くべからざる諸元素中に加わりて相離れざるものなり。これ、宗教のその国の言語、歴史とともに、一国の独立を保全するに必要なるゆえんなり。別して社会の諸事諸物、旧を去りて新に就くの際に当たりては、宗教にあらざれば、一国従来の精神を愚民の間に維持すること難し。もし、その愚民をして開明の進歩をとらしめんと欲せば、よろしく旧来の宗教中にその元素を入れて、知らず識らずの間に有知有識の境に誘入するを要するなり。

 今、わが国旧来の宗教には神仏二教あり。仏はそのはじめ他邦より入りたるも、弘法大師神仏調和論を唱えてより以来、インドの仏教は転じて日本の仏教となり、ついで中世浄土宗起こりて以来、日本に一種固有の仏教を見るに至れり。ゆえに、今日にありては神仏二道ともに日本の宗教なるのみならず、この二者互いに相調和して、その間に不和を生ずるの憂いなし。しかるに、ヤソ教はその今日、日本にあるもの、ロシアより入るものあり、フランスより入るものあり、英国より来たるものあり、米国より来たるものあり、その宗派といい、その組織といい、その性質といい、その精神といい千種万様にして、ただに日本の民情、人心に適合すること難きのみならず、わが人心をしてますます離散し、ややもすれば宗教と宗教との間に不和を生じ、一方には一国政治上の妨害となり、一方には国家独立上の妨害となること明らかなり。余つとに、ここに見るところあり。近日ようやく政教の論穏やかならざるを見て、遠く西洋諸国の、その自国の宗教を保護するの本意、いずれのところにあるやを知らんと欲し、今度の周遊を企つるに至りしなり。

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