エスキモーの国から

5話 グリーンランドと日本

1,284字 約3分 2022年3月29日 公開

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 現在のところ、世界中で日本と一番縁の遠いところは、グリーンランドであろうと、昨年まで考えていた。

 ところがそのグリーンランドまで、日本の雑貨が進出しているのであるから、全く驚いた話である。

 グリーンランドには、飛行場が二つあって、そのうちの一つチューレには、まだ軍用機しか行っていない。しかし南方の北極圏へはいったばかりのところに、今一つサンダストロームという町があって、そこの飛行場には、民間航空機も立ち寄っている。欧州北部とカナダとをつなぐ航空路が、ここを中継地としているのである。

 グリーンランドの氷冠の研究には、アメリカの外に、欧州からも探検隊が来ているが、その方はサンダストロームを基地として、氷冠の南部を調査している。

 この探検は、フランスとスイスとが主としてやっているので、隊長はストラスブルクのバウアー教授である。もう三年前から始めている。

 昨年フランスのシャモニイで国際雪氷委員会の会議があったとき、バウアー氏は、十二、三歳になる男の子をつれて来ていた。その子供が、一寸変った絹のジャンパーを着ていたが、背中に白熊の刺繍(ししゅう)があって、その上にグリーンランド、下にサンダストロームと、横書きにちがった色の刺繍がしてあった。

 バウアー氏は「これはサンダストロームから、この子供の土産に買ってきたものだが、ここを一寸見なさい」といって襟のところをまくって見せてくれた。そしたら Made in Japan という小さい札がついていた。サンダストロームなどという名前を知っている日本人は、ほとんどいないであろうが、日本の商品は、そういうところまで、どんどん進出しているわけである。まことにたくましいものである。

 チューレへ行く軍用輸送機は、フィラデルフィアの郊外からとび立って、カナダのグース・ベイ飛行場を中継地として、あとまっすぐにチューレまでとんでしまう。

 全飛行時間は、十二時間足らずであって、朝アメリカの物質文明の中心地を立つと、夕方には北極点から八百マイルのところに着くわけである。

 グース・ベイは、カナダのラブラドール州の真ん中にあるが、ラブラドールといえば、エスキモーが住民の多数を占めているところで、グース・ベイの周囲など、何十マイルという範囲内に、人間がほとんど住んでいないところである。そういうところに、飛行場をつくり、立派な街をつくって、皆家族づれで住んでいる。ここは民間航空路の中継地にもなっている。

 今度来るときは、チューレの天候が悪かったので、ここで一泊したが、夕食に将校集会所へ行ってみたら、その豪華さにはいささかあきれてしまった。食堂内部の飾り付けも、椅子、卓も、食事も、女給仕も、ニューヨークの一流レストラン級である。そしてめかし込んだ細君をつれた将校も大分来ていた。国防にこう金がかかっては、アメリカもたまるまいと思った。

 ところでこの食堂のナプキンであるが、これがまた全然日本画なのである。鵞鳥(グース)ととど松と葦を墨絵でかき、黄色い太陽を配した図柄である。これは日本で印刷したものではなかろうが、一種の進出といえないこともない。

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