6話 北極で流星をつかまえる話
読み方を変える
昨年西堀さんが南極から帰って来られたときの土産話に、昭和基地では、流星球が、非常にたくさん採集されたということであった。
流星が大気中にはいって燃えるとき、全部燃え切らずに、きわめて小さい鉄の球のままで、地上に達することがしばしばある。顕微鏡の下で見ると、完全な球形をしていて、表面が金属光沢をもっていることが多い。そういう球を流星球といって、昔からよく知られているものである。
もっともこれと全く同じものは、金工場や実験室でも容易につくることができる。鉄の刃物を廻転砥石でとぐときに、火花がとぶ。あの火花を軟らかい紙に受けて顕微鏡で覗くと、球形の鉄の球であって、流星球と全く同じものである。
それでこういう鉄の小球が見つかっても、それが流星球であるか、鉄工場や製鉄所で出来た人工ものか、区別ができない。
それが初めて確認されたのは、太平洋の深海の泥土の中から採集されたからである。旧い話で、ダーウィンが、ビーグル号で世界一周をしたときに、太平洋の深海から泥土を採って調べたところ、この鉄の小球が見つかったのである。
陸地から海にはいるものは、大陸棚に沈澱してしまうので、大洋の深海までは届かない。
それで太平洋の底に沈んでいるこの鉄球は、流星球と考えられるのである。その後スウェーデンのハンス・ペターセン教授が、太平洋と大西洋と、両方の深海の底から、たくさん流星球を見つけて、この方はもう確かめられている。
陸地でこの流星球をつかまえようと思ったら、南極か北極が一番よい場所である。鉄工場の心配がないばかりでなく、万年雪の中に、昔からその流星球がたまっているからである。それで雪をとかして水をつくるときに、容器の底に流星球がたまることが考えられる。
西堀さんが集められたのは、まさにそういうふうにされたのであるが、一つ不思議なことは、その量が非常に多かったことである。太平洋の深海の泥土は、非常にゆっくり沈澱するので、少し長いコアをとると、何十万年の昔からたまった流星球が、そのコアの中にあることになる。ところがその数はそう多くないので、プリンス・ハロルド海岸は、よそと比べて桁ちがいに、流星球が多いのである。
これは昭和基地ばかりでなく、南極点をはさんで反対側にあるアメリカの基地でも、たくさん流星球が採集されている。極地に流星球が多いのなら北極でも同様なことが観測されてもよいはずである。
ところが今までそういう話はきいたことがない。
それで今度グリーンランド滞在中に、道楽半分に、北極の流星球をつかまえてみようかと思っている。この氷冠上の観測所では、毎日莫大な量の雪をとかして、生活用水にしている。昨日そのタンクの底の排水口から、少し水を出してもらって、その沈澱物を顕微鏡で調べてみた。
鉄の容器であるし、それに人間が住んでいるための塵埃が多くて、流星球はなかなか見つからなかったが、今までのところ二つだけそれらしいものが見つかった。少しひまが出来たら、完全に人間の生活から隔絶された場所の雪をとって、それをとかして調べてみたいと思っている。