13話 五月二十四日
読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
読み上げの速さ
組み方
「先生が、貴女のところにウィスキーがあるっていうんですけど――」
「あらそう、どうぞ」
六月の御誕生日の御祝にと思ってとってあった品だったけど。夕食を持参してお手伝いにいく。七人のお客様と私。野原さんのお隣りで飲む。ウィスキーの甘味な舌ざわり。皆さんに喜ばれて、今宵の私の心も酔う。放送劇団の人達。綱さんや、加藤さんのお話――懐かしい。
“すみれ”で二次会。野原さんの楽しいベレー帽から、話は咲いて……、人に喜びを与え得る人はいいなあ、そして、人に悲しみを与え得る人もいい。そして、この二つのどちらかしか、世の中に生きていく強さはないでしょう、と野原さんと握手。そういう御方と一緒でなければ、こうして酒席へなど、私は、はべりませぬ。今夜は私の顔も赤い。真実のことを、ちょっと語ってしまう。
「斜陽」の御婦人も御一緒だったけど……。
先生、彼女、野原さん、桜井邸へいかれる。
“ヴィヨンの妻”――あの奥さんは幸せだと思うわ、野原さん。
本当にそう思いますか?
本当よ!
本当かなあー、信じられないなあー。
アラ、本当にそう思うのよ。ああいう奥さんなら、大谷は幸せよ。なんていうか、カヴァーされているというのか……。
そうなんですよ。うれしいね。幸せなんだ。
貴女、偉いね。
偉くなんかないわよ。当り前のことよ。ノスタルジャーがあるというのかしら。
あれを分かる人というのはいないんだ。
あら、何処かには、きっといてよ。そう信じて生きなければ余りにも寂しいじゃありませんか、ねえ、そうでしょう。
さあさあ、飲みましょうよ。
――サッちゃん、大いに酔う。