26話 八月二十二日
読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
読み上げの速さ
組み方
宮崎さん、北山さん、別所さんお見えになる。二十日ひる。石井さんを御案内して、御一緒に西山方へ伺ってから泊り、二十一日も、“泊ろうよ”“ええ、泊りましょう”と居つづけたら、夕方野原さんがみえた。その前に、“野原が今ここへきても僕は驚かないね”などとお話していたやさきのこととて。三人で泊る。
「サッちゃんて言わなかったね、野原は」
「泊るなら飲みますなんて言ったね、あいつ」
――あまりお体の御様子が快くはいらっしゃらないけど、私にはどうしようもないんですもの。
「君が悪いんだよ。いなかったんだもの。やけくそだったんだ。吉祥寺でウィスキーを一本飲んじゃってね」
だからいないと心配なの。あのときは仕方がなかったんですもの。それにちゃんと日を決めてお話して差し上げたのに、それでなくてさえ御丈夫なお体でもないのでしょうに、ひどい。宮崎さんには前にも一度お目にかかっていたので、それにあのとき太宰さんと御一緒だということが、とても楽しそうにみえましたので、お休みになりますならと、ちょっとお上げする。千草からビールと焼酎を持参する。失礼だなあと感じたところもあったけど、まあまあと。
「先生は近ごろあまり書きすぎますね。自殺するんじゃないかと思うんだ」
と北山さん。胸をつかれる。毎日が死との闘争。一字一句が死との闘い。太宰さんを、一面ずつ知っていくことは悲しいけれど、近づいていく喜びもある。
「貴女このごろ、顔の色がよくありませんね」と野原氏。
よくありませんとも。死んでしまうまで、誰にも、なんにも知られたくはない。そしてまた誰も、なんにも知らないでいる深い理由を。死んでしまって、誰にも分からないことだらけ。二人だけで沢山だ。