27話 八月二十四日
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おひる近く、コンテと帰ってくる。朝、太宰さんがおみえになられた由。買物籠を下げてみえました、といつにない小母さんの顔。やっぱりお見えになったと、泊ってきたことを残念に思う。出張先から帰ったら、コンテさんが千草に来ていらっしゃるという。
和服姿の良人を改めて二階へお通しする。三人で飲む。宮崎、北山、別所さん達のことをお話したら叱られてしまった。
「君の気持ちは分かるよ、でも、断わんなさいよ。第一失敬だよ。かりに僕の妻じゃないか。僕は不愉快だな」
ごめん、ごめん、ごめんなさい。コンテさんも太宰さんと一緒になって、“貴女、駄目ね”なんて言うんで、苦笑する。
「遊んでやって下さいよ。この人の良いところは、人の悪口を言わないことね。僕は随分言うけど。この人の言うのはまだ一度もきいたことがないよ。君はいい友達をもっている。幸せだよ。僕にはない」
いやいや。悲しいお言葉ばかり、帰るコンテさんを送って御一緒に吉祥寺までいき、西山へ泊る。
さっきは、珍しく遊んでやって下さいと、度重ねて仰言ったお言葉が少し気になっていたけれど、その意味が分かった。独りで死ぬと仰言るの。
「駄目だよサッチゃん。十月まで保たないよ。憔悴しちゃったよ。寝なきゃあならないんだ」
「誰か、いい人を見つけて、幸せにおなり」
「いい人なんて、結婚する相手なんて、あなたより他にいやしないのに」
泣いて、泣いて、泣いてしまう。
「ごめんね。僕はつらいんだよ。別れている間が――。どうして君と一緒にいると、安心なんだろうなあ。不思議だなあ」「……」
「ね、色恋なんていうんじゃなくて、何か、同じもので結ばれているというところがあるね。僕の内臓の一部分のような気がするんだ。だから、いつでもそばにいてくれないと苦しいんだよ」
「ウン、同じ血が流れているような気がするの。妹でもいいから、津島家へ生まれてきたかったなあ」
「君の、そのウン、ていうの大好き。あばたもえくぼだ」
「サッチャんに惚れちゃった」「いやいや、また始まる……」
太宰さんを待って、嫁がずにいられる女の方のお話も再度耳にした。女の方が御気の毒で涙が出る。二人で随分泣いてしまう。私達二人とも、いままで人の前なぞ、泣顔をみせたこともないのに。そして自分達の苦しみごとなども。
何故こう私達は悲しいのだろう。泣いた。泣いた。
「私、別にお知らせ致しませんけど、先に逝きます」
「駄目よ駄目よそんな」
しっかり抱き合って、あなたが死ぬなら私も死ぬ。あなたのいない世の中なんて、なんの楽しみがあるものか。
「御一緒に連れていって下さい」
「ごめんね、サッちゃんを頂きますよ」
「うん、頂くなんて。お願いします。お供させて下さいね」