ノベリズ
五月より
186字 約1分 2011年9月14日 公開
それ、おほみそかは大薩摩(おほざつま)の、もの凄(すご)くも又(また)可恐(おそろ)しき、荒海(あらうみ)の暗闇(やみ)のあやかしより、山寺(やまでら)の額(がく)の魍魎(まうりやう)に至(いた)るまで、霙(みぞれ)を錬(ね)つて氷(こほり)を鑄(い)つゝ、年(とし)の瀬(せ)に楯(たて)を支(つ)くと雖(いへど)も、巖間(いはま)の水(みづ)は囁(さゝや)きて、川端(かはばた)の辻占(つじうら)に、春衣(はるぎ)の梅(うめ)を告(つ)ぐるぞかし。水仙(すゐせん)薫(かを)る浮世小路(うきよこうぢ)に、やけ酒(ざけ)の寸法(すんぱふ)は、鮟鱇(あんかう)の肝(きも)を解(と)き、懷手(ふところで)の方寸(はうすん)は、輪柳(わやなぎ)の絲(いと)を結(むす)ぶ。結(むす)ぶも解(と)くも女帶(をんなおび)や、いつも鶯(うぐひす)の初音(はつね)に通(かよ)ひて、春待月(はるまちつき)こそ面白(おもしろ)けれ。
大正八年五月―十二月
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