青い風呂敷包

5話 水兵結び

1,423字 約3分 2012年12月10日 公開

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 二時間後、杉村は元気よく戻って来た。

 係長は彼の顔を見ると、待ち兼ねたように訊くのだった。

「どうだね? 君、何か手がかりがあったかい?」

「やっと謎が解けました」と彼は莞爾(にっこり)した。

 係長は眼を(みは)って、

「何にッ? 謎が解けた? 犯人が分ったと云うのか?」

「分りました。百合子を殺したのは吉川です」

「吉川を殺したのは?」

「彼自身、即ち彼は他殺でなく、自殺です」

「死体を包んだのだけが、初子の仕業か?」

「否え、それも彼自身のやったことでした」

「しかし、自分を包んで、外から縛るという事が出来るかな?」

「出来ます。あれは水兵結びですから、少しその道に心得のあるものなら誰にだって出来る。たった今、彼が水兵だったことが分ったので、この謎がすっかり解けたわけなんです。僕の想像を話しますから聞いて下さい。吉川はドラゴンを出ると、偶然百合子に遇い、彼女を無理やりに自動車に連れ込み、頻りに復縁を迫ったが拒絶された。いろいろ言葉を尽して頼んでみたがやはり駄目、手厳しく刎付(はねつ)けられたのにカッとなり、嫉妬と怨恨とに燃えていた全身の血は、一時に頭に昇ったと思うと、夢中で彼女に飛びかかり、力をこめて細い首を絞めつけました。ハッと我に返った時には百合子はもうぐったりとなって、彼の腕の中に倒れていたんです。その死顔をぼんやり見守りながら、今こそ、彼女は完全に自分のものだ、と思うと、何とも知れぬ嬉しさに胸が一杯になるのでした。吉川はその場で直ぐ後を追う積りだった、が、こういう結果になるのもみんな初子が悪いからだ。憎いのは彼女だ。復讐してやる、それから死ぬことだ、と思った。自惚れというものは恐しい、あれほど嫌われていたのが分らなかったのだからな。彼のためには幸であるかも知れないが、――そこで彼は考えぬいた末、彼女の部屋で自殺して、それを他殺らしく装い、嫌疑をかけてやろうと思いつき、そのために桃色のリボンまで握って死んだんです」

 と言って、杉村はリボンと麻縄と風呂敷とを持って来て、

「水兵結びをやってみますから、見ていて下さい」

 と、青い風呂敷を拡げ、その真中に坐って、麻縄の一端にリボンを結びつけ、風呂敷の四隅を集めて縄で括り、リボンを握ってすっぽりと中に入り、中からぐいぐいと手繰った、彼がリボンを引張る度に麻縄は段々と締ってゆき、最後にウンと一つ力を入れたので、縄は驚くほど強く締った。同時にリボンはするりとぬけて、彼の掌の中に握られた。

「入ることは入ったが、出ることが出来ない。麻縄を断って下さい」

 係長はナイフで縄を断った。杉村は乱れた髪を撫で上げながら、

「吉川は風呂敷の中で、心臓を突き、自殺したのです」

「しかし、姉への復讐ならむしろ妹と情死したように見せた方がいいんじゃないか。それに――、好きな女を自動車の中に棄てて、一人で初子の部屋へ行ったのも少し変じゃないか」

「ガソリンがなくなったから、已むなくあそこへ置去りにしたんでしょう」と言った時、後のドアが開いて、一人の刑事が係長へ解剖の報告をした。

「吉川と百合子の胃中には同じものが残っていましたが、消化の点から見て、吉川が先に死んだものと分りました」

 その一言で杉村の想像は根本から覆えされてしまった。刑事はまた語をつぎ、

「それからもう一つ重大な発見がありました。それは吉川の口中から出た小さい肉塊です。その肉塊には皮がついていました。しかも、指紋のある――、手の指先らしいということです」と言った。

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