三悪人物語 忍術千一夜 第二話

6話 六

2,083字 約4分 2022年6月11日 公開

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 三人は凍てる大根畑にしゃがんで、襲撃の方法を打ち合わせた。三人はいま息をはずませている、彼らはその眼で見た、部屋の中に積んである千両箱の山を、それは間もなく三人の所有に属するだろう。王者の富、快楽と安逸と自由の保証、なんたる幸運の昂奮(こうふん)であるか、彼らはわくわく勢(きお)い立った、

「小田原評定はたくさんだ」

 権頭(ごんのかみ)が立ち上がった、

「相手はあの若僧ひとりあとは老いぼれの爺婆(じじばば)だけだ、こっちは大阪陣に抜刀斬込み隊で戦った豪傑だぞ、押し込もう」

「そだそだ、むずかしいことね、やっけろ」

 中将もこう云って腕をまくった。――杢は蓑賀殿から剥いで来た物を背中へ縛りつけ、三人それぞれに身ごしらえをした、そして大根畑から出てかの家の裏口へ忍び寄った。

 厨(くりや)と思える戸を明ける、暗い土間だ。向こうに燈明かりの漏れる戸がみえる、「――いいか」

 こう云って権頭が刀を抜いた、杢も中将も刀を抜いた、呼吸を合わせた。そして権頭がいきなりその戸を押し明けた、誰か人がいるだろうと思ったら、そこもまっ暗な土間である。そしてこんどは左側に燈の漏れる戸がみえる、「ははあここだよ」こう権頭が云った、なるほどそこに上り框(がまち)があった。権頭は土足のままそこへ上がり、戸へ眼を押しつけて中をうかがった。だがそこもうす暗くてよく見えない、そっと戸を明けて中へ入ってみた、とたんに権頭は宙を踏み、もんどり打ってどこかへ墜落した、彼は千仭(せんじん)の空谷(くうこく)へおちたと信じ「助けてくれ」と叫んだ。中将と杢がびっくりしてのぞきこむと、千仭の谷ではなく単なる土間へ落ちたに過ぎなかった。

「ああ胆をつぶした」

 権頭は口から泥を吐き出しながら、腰をなでなで立ち上がった、

「どっちへいっても土間ばかりありやがる、わけがわからねえ」

「よし、おれやてみる、わけねさ」

 中将はじっと周囲を見まわし、右へ見当をつけて足を進めた。すぐに戸へ突き当たった。要慎に如(し)くはない。じっと耳を澄ますと人声が聞こえる、「ここだ」中将はこうささやき、刀を持ち直してがらりと戸を明けた。ところがやはりまっ暗な、そして、――土間である、三人はかっと怒った。脱兎のごとく戸という戸へとび掛かり、それを押し明けては踏み込んだ、しかしどこを明けてもまっ暗な土間だった、四方八面ゆけどもゆけども暗い土間で、それ以外のどんな部屋もなかった。

「やいこの家の野郎、出て来い」

 三人は土間から土間へこうわめき歩いた、

「この刀が見えねえか、あり金残らず出しあがれ、四の五のぬかすと命あねえぞ、やいどこにいる、出て来やあがれ」

「出て来なければ命はないですぞ、われわれは抜刀斬込み隊くずれ命知らずですぞ」

「やいふざけると承知しねえぞ、みな殺しだぞ」

 だが誰もなんとも答えない、どっちへいっても暗い土間だし、人のいそうなけはいもない。やがて三人とも歩きくたびれ、わめき疲れた余り厭(いや)になってきた。

「こりゃだめだ、始末にいけねえ」

 権頭がやがて立ち止まった、

「今夜はやめにして出直すとするか」

「それがい、もらつかれた」

 中将もうんざりしたように首を振った、「もらねむくなた」

 じゃあ出ようということで、三人はくたびれた足をひきずりながら後へ引き返した、こんども土間から土間への旅だ、幾らいっても同じこと、暗い土間から土間続きである。権頭はたまらなくなってどなった。

「やい、罪なまねをするな、出口はどっちだ」

 夜が明けるときれいに晴れた朝になった。玉造の家から八百助が出て来た、例のきらびやかな着付けに黄金作りの太刀を佩(は)き、笠はかぶらず、絵からぬけ出たような美男ぶりを見せながら、右手に扇を持って寛濶(かんかつ)に歩いてゆく。松林を出て、つんぼ井戸の手前へさしかかると、そこに半分ぶっこわれた物置小屋がある、八百助はそちらへちょっと振り返った。――その小屋の中に三人の男がいる、中将と権頭と杢である。彼らは手さぐりで、小屋の中を右往左往しながら、「もう大丈夫だ、出口は近い」などと云っている。

「離れるなよ、もうちっとの辛抱だ、元気をだせ」

 そして狭い小屋の中をぐるぐる廻っている。八百助はにこっと笑い、晴れあがった空を眺めながらゆったりと通り過ぎた。

 彼が佐貝へ来て三十日ほどたつ、すでにこの市の不正と偽瞞(ぎまん)と悪徳の所在を調べ、飢と寒さと物資欠乏に泣く市民の実情を知った。一方ではかの下僕(げぼく)出来六(できろく)をここへ追い込み、贋金作りの闇七にも必要な位置を与えた。――かの下松(さげまつ)における成木持助の出現のごとく、ここでもまた彼は重要な役割を果たすに違いない。さて、八百助はまず両替商持木屋成助の店へ立ち寄った。

「なに玉村の若旦那だって」

 成助はとび上がった、八百助はここではそう呼ばれているらしい、成助にとっては伝説的な恩人、黄金的条件の金主である、彼は店へとびだしていった、

「これはこれは玉村の若旦那ようこそ、昨夜はとうとう誰(た)が袖へおみえになりませんでしたな」

「いったよ」

 八百助は奥へ通りながら、

「いったけれど、お杉につかまってね、離れへつれ込まれてどうしても放さないものだから、それで今朝は早く来たというわけさ、用というのはなんだい」

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