随筆銭形平次 19 探偵小説このごろ

4話 吉田首相へお礼しなくちゃア……

730字 約1分 2016年2月2日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

 江戸川 あなたのは、はじめは外国探偵小説の翻案だと思われたでしょう?

 野村 そう、はじめはまちがえられてね。翻案は全然ない。しかし、どうも日本は探偵小説や捕物帖を目の(かたき)にするね。小泉信三氏から聞いた話だが……イギリスのある有名な首相だよ。政局の動きが思わしくなくて、憂鬱になっていた。ある日とても愉快そうにニコニコしているので、夫人が政局がうまいぐあいに打開されたか、と喜び「どうなさったの? 予算が議会を通ったのでございますか」と聞いたら「いや、嬉しいじゃないか、コナン・ドイルがまた新しい小説を書きはじめたそうだ」といったという話。

 江戸川 吉田首相も探偵小説の愛読者なんだそうじゃないですか。

 野村 牧野伸顕氏も実に好きだったらしい。ある外交官が外国へいく前に、牧野さんを訪ねて「なにかご注文は?」と聞いたら「面白い探偵小説を二、三冊送ってくれ」といったそうだ。

 江戸川 探偵小説は、外国では老人が読んでいる。日本では若いものが読む。まるで反対だ。ぼくは書きはじめてから二十五年になるが、このごろになって、代議士になっているくらいの年輩の人に、「読んでいますよ」といわれるようになった。嬉しくなるね。

 野村 吉田首相がわたしの捕物帖を読んでいるというんで、新聞やラジオでずいぶん冷かされて、困ったよ。しかし、おかげで、だいぶ宣伝になってね。そのうちにお礼にいかないといかんな。

 江戸川 この前アメリカへいった金森徳次郎氏に会った。アメリカで国会の図書館へ案内された。たいしたライブラリーでね。アメリカの議員さんは、ずいぶん勉強するでしょうねと彼がきくと、「なあに、読んでいるのはフィクション(小説)かデテクティヴ(探偵もの)ですよ」といっていたそうだ。

目次に戻る

目次