妙義山の五日

4話

935字 約2分 2020年10月16日 公開

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金洞、金の間の谷をゆきて、峠一つ越ゆれば、金山の東麓に達す。御嶽紳社あり。一軒の茅屋ありて、茶を賣る。案内者曰く、頂上まで二時間にて往復するを得べしと。少しのぼれば、等身大の銅像あり。案内者曰く、これこの山路を開きたる御嶽神社の祠官、中澤駒吉といふ人の銅像也。その四代の孫、今なほ祠官をつとむと。また上れば、銅佛あり、不動尊也。束帶の銅像あり、案内者曰く、和歌神社也。路は峯背に通ず。石佛、石神多し。合目を記せる石も立てり。帆立岩の側を過ぎて、七合目半にいたれば、巉巖高く五六十度の勾配をなす。巖面は、いぼがへるの如く、石の瘤多し。蟹の四つ這ひと稱す。人は石の瘤を手につかみ、足にふまへて上る。人に主義あり涙あり侠骨あるは、言はば、この石の瘤也。餘りに利害にさとく、小利口に過ぎては、竟に如何ともすべからざる也。見上ぐるも恐ろしく、見下ろすも恐ろしき處、一町以上もつゞく。左は乾瀧とて、瀧に似て水なく、右は千仭の絶壁、どちらへ轉んでも命はなかるべき處、馬の背渡りと稱す。乾瀧を左へわたりて、また馬の背を上り、頬剃を過ぎ、山峽の橋をわたり、髯剃を經て、はじめて絶頂に達す。石祠あり。なほ西にゆけば、脚下に葡萄園を見る。嶮は金洞に倍すれども、眺望は劣れり。唯白雲、金洞二峯をあはせ見るが、こゝの眺望の特色也。立つて眺め、すわりて煙草ふかし、終に仰臥して空想にふける。日ほか/\と、あたゝか也。この山上、今やわれより高きもの無しと、見上ぐる空、我よりも數尺の上に、微蟲群を成して舞ふ。あれは何ぞと問へば、『ぶゆ』なりといふ。『ぶと』とちがふかと問へば、『ぶと』は人を刺せども、『ぶゆ』は刺さずといふ。日は西に傾きて、山影谷を越えて、彼方の丘陵にうつる。われ立てば、山より高きこと五六尺。されど、我影を彼方の丘陵にうつさむには、我身あまりに小也。

 茶屋までもどりて、歸路に就く。金の裾野を東より北へめぐるに、日暮れたり。顧みれば、三日月、兜岩の頂にかゝれり。

 あとにて聞けば、金の絶頂より峯をつたひて、最西端の筆頭岩にいたるを得べし。筆頭岩の頂上にものぼるを得べし。されど、綱をもちゆかずば、下り難しとの事也。又聞く、金山麓に深き洞窟あり、是れむかし金を採掘せし跡なりとの事也。

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