19話 消える魚形艇
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ハヤブサ丸では、やっと、準備がおわって、五人の潜水夫が、ちらばった金塊をあつめるために、海の底へおりていきました。もう夜の八時ごろでした。海はまっくらです。
鉄の網も、ロープをとりかえて、潜水夫といっしょに、しずめました。水中電灯をさげた五人のものは、海底の金塊の箱を見つけだしては、その鉄の網の中へはこぶのです。
一時間もかかって、やっと八つの箱を、鉄の網にいれました。さいしょ、網にいれた箱は、十五でしたが、そのうちの七つは、落ちるときに、こわれてしまって、中の金の棒がバラバラになり、海底の砂の中にうずまってしまったので、きゅうにさがしだすことができません。それで、八つの箱を網にいれると、潜水夫のひとりが、潜水カブトのなかの電話で、ひとまず、それを引きあげてくれるように、ハヤブサ丸につたえました。
ハヤブサ丸の甲板では、その電話をきくと、鉄の網のロープを、機械でぐんぐん引きあげました。こんどは、さっきのような大ガニもあらわれず、八つの箱は、ぶじに甲板についたのです。
海底にのこった五人の潜水夫は、つぎに、バラバラになって、砂にもぐっている金の棒をさがしはじめました。砂ばかりではありません。海底には、コンブのような海草が、たくさんはえていますから、その中へ沈んだ金塊をさがすのは、ひどくほねがおれるのです。
しかし、五人のものは、ひとつでも多くさがしだそうと、むちゅうになって、まっ暗な海底を歩きまわりました。
水中電灯は、いくら明るくても、三―四メートルしか、てらしませんので、まるで、墨汁の中を歩いているようなものです。なかまの潜水夫の姿さえ、少しも見えません。ボーッと光った水中電灯が、あちこちに動いているばかりで、人の形までは見わけられないのです。
ふと気がつくと、むこうの方から、二つのまるい光が、ひじょうなはやさで近づいてきました。水中電灯ではありません。もっと強い光です。それが、またたくまに、すぐ目の前にせまってきました。
「あっ、魚形潜航艇だっ。」
ひとりの潜水夫が、おもわずさけびました。その声が、ハヤブサ丸の甲板の受話器にひびきました。
甲板では、ひとりの技師が受話器を耳にあてていましたが、そのさけび声をきくと、すぐに、船長につたえました。船長は無電技師に、みかたの潜航艇へ、そのことをしらせるように命じました。敵の魚形艇を追っぱらうためです。
海底では、魚形艇は、潜水夫たちの、すぐまえに、近づいていました。ギラギラ光る二つの目玉が、あたりをぽーっとてらしているので、魚形艇の全体の姿が、おぼろげに見わけられるのです。
潜水夫たちは、それを見たとき、あまりのおそろしさに、からだがしびれたようになって、さけぶことも、にげだすことも、できなくなってしまいました。魚形艇の長い背中に、見るもぶきみなばけものが、かさなりあって、とりついていたのです。それは八ぴきの鉄の人魚でした。まったくおなじ形の、あのおそろしい怪物が、ウジャウジャと、かたまっていたのです。
魚形艇は、スーッと、頭をさげて海の底とすれすれまで、おりて来ました。するとその背中にかたまっていた八ぴきの怪物が、ぴょいぴょいと、海底にとびおりたのです。そして巨大なワニのようなかっこうで、潜水夫たちの方へ、はいよってくるではありませんか。
「わー、引きあげてくれえ! 鉄の人魚がやってきた。はやく、はやく。」
五人の潜水夫たちが、口々に、わめきました。その声が、ハヤブサ丸の受話器にガンガンとひびくのです。
技師はいそいで、機械係に、引きあげのあいずをしました。ガラガラとロープがまきあげられます。
やがて、五人の潜水夫は、ほうほうのていで、ふなばたにはいあがって来ました。そしてカブトをぬがせてもらうと、海底のおそろしいありさまを、くわしく報告するのでした。
いっぽう、みかたの潜航艇は、ハヤブサ丸から無電の命令をうけて、すぐさま、潜水夫のもぐっている場所へ、いそぎました。
そこへついたときには、ちょうど、八ぴきの鉄の人魚が海底におりたところでした。敵の魚形艇は、はやくも、こちらの潜航艇に気づいて、いきなり逃げだしました。
ギラギラひかる二つ目玉の怪魚と、それを追う三つ目玉の潜航艇、両方とも、全速力で、海の底を走るのです。海底のさかなどもは、時ならぬ巨大な怪物の襲来にあわてふためいて、逃げまどう。それが二つの潜航艇のヘッドライトにてらされて、金色に、銀色に、チラチラと、美しくひらめくのです。
二つの艇のあいだは、五十メートルほど、へだたっていました。にげる魚形艇は、みさきの海岸の方へ、まっしぐらに走っていたのですが、もうすこしで、海岸にとどきそうになったところで、ふっと、その姿が見えなくなってしまいました。
二つの目玉の電灯を消したのだろうと、こちらのヘッドライトで、そのへんいったいを、くまなくさがしました。でも、あの大きな魚形艇が、かげも形も見えないのです。海の水にとけてしまったようにあとかたもなく、消えうせたのです。
そのへんの海底は、でこぼこした岩ばかりで、なかには小山のような大きな岩もあります。敵はその岩のかげに、かくれているのではないかと、ながいあいだ、ぐるぐるまわってさがしましたが、どこにもいません。
そんな大きな魚形艇が、そんなにうまく、かくれられるものではありません。ゆうれいのように消えてしまったとしか、かんがえられないのです。
しかたがないので、そのことを、ハヤブサ丸に無電でしらせておいて、味方の潜航艇は、そこをひきあげることにしました。
それにしても、魚形艇は、いったいどうしたのでしょう。あんな大きなものが、海底の砂の中へもぐるわけにはいきません。コンブなどの林も、魚形艇をかくすほど大きくはありません。もしや海面に浮きあがったのではないかと、こちらも、浮きあがってみましたが、やっぱり、かげも形もないのです。
海底の魔術です。鉄の人魚の怪物団は、ふしぎな魔術をこころえていたのでしょうか。