23話 怪少年
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首領はジャックを、テーブルの前によびつけて、しかりつけました。
「ジャック、どこへ行ってたのだ。おまえをさがしだしてから、もう一時間にもなるぞ。いったい、そんな長いあいだ、どこへ、あそびにいっていたんだ。」
首領の前に立ったジャックは、にやにや笑って、頭をかきました。
「村へ行って、漁師のうちで、ごちそうになったもんだから、つい、おそくなって……。」
「なんだと? 村へあそびにいった? ようじをすませたら、すぐ帰れと、あれほどいってあるじゃないか。漁師なんかとつきあって、このかくれがを感づかれたら、どうするんだ。」
「へえ、もうしわけありません。これから、気をつけます。」
ジャックは、うつむいて、しんみょうにしています。
「おまえは、ろうやのかぎを、あずかっているんだろう。そのろうやに、へんなことがおこったのだ。賢吉のやつが、ろうやをぬけだしたらしい。洞窟の中に、チョロチョロと姿をあらわすのだ。だが、あの子どもは、いつのまに、そんなにすばしっこくなったのか、みんなが、おっかけても、どうしても、つかまらないのだ。
ところが、ろうやへいって、こうしの中をのぞいて見ると、賢吉はちゃんと、その中にうずくまっている。なんだかわけがわからないのだ。みんなは、賢吉がふたりになったといっている。だが、そんなばかなことはない。どちらかが、にせものなんだ。それで、ろうやにいる賢吉をしらべようとしたが、ろうやの戸をひらくかぎがない。かぎはおまえがもっているからだ。さあ、すぐにろうやをしらべてみよう。まさか、かぎをなくしはしまいな。」
「へえ。それは、ちゃんと、ここに持っております。じゃあ、ろうやへ、おともしましょう。」
ジャックは、そういって、さきにたちました。ふくめんに黒マントの首領は、そのあとからついてきます。
ふたりは、まっ暗な岩のトンネルをとおって、ろうやの前に来ました。ジャックがかぎで、ろうやの戸をひらき、ふたりはその中に、はいりました。
みると、賢吉少年は、いわやのすみっこに、うつむいて、うずくまっています。ふたりが、はいってきても、身うごきもしません。眠っているのか、それとも、死んでしまったのではないかと、思われるほどです。
首領はツカツカと、そのそばによって、うつむいている賢吉君の頭をおさえて、グッと顔を、あおむけましたが、その顔を、一目みると、
「あっ。」
と、声をたてて、タジタジと、あとじさりをしました。それは人間の顔ではなかったからです。ジャックも、それを見てびっくりしています。
ふたりは、なぜそんなに、おどろいたのでしょうか。それは生きた人間の顔ではなくて、マネキンの顔だったからです。洋服屋のショーウインドーにかざってある、子ども人形の顔だったからです。
首領は、人形だとわかると、はらだたしげに、ひきちぎるように、うわぎをぬがせましたが、からだはワラのたばでできていることがわかりました。ワラたばに洋服をきせて、賢吉少年に見せかけてあったのです。
「賢吉のやつ、こんな人形でごまかしておいて、やっぱり逃げだしたんだな。ちくしょうめ。」
いきなり、ワラたばをひきだして、ふみにじりました。そのひょうしに、人形の首がとれて、コロコロところがり、まるで少年が、首をきられたように見えました。
それにしても、人形の首や、ワラたばは、いったい、だれが持ってきたのでしょう。また、人形に服をきせて逃げだした賢吉少年は、いったい、なにをきているのでしょう。
首領は、ふしぎでたまらないという顔つきで、首をかしげました。
しかし、読者諸君は、よくごぞんじです。賊の手下のジャックにばけた明智探偵が、ハヤブサ丸から人形の首や、ワラたばをろうやの中にもちこみ、賢吉君の服をそれにきせ、賢吉君には小林少年がきていた漁師の子どものをきせ、明智じしんも漁師の着物をきて、ほんとうの賢吉君は、船にのせてハヤブサ丸へつれてかえったのです。
ですから、洞窟の中にチラチラと、姿を見せている子どもは、賢吉君ではなくて小林少年なのです。小林少年が賢吉君の服をきて、ばけているのです。
しかし、賊の首領は何もしりません。洞窟の中がくらいのと、明智の変装のうまいので、首領は、ほんとうのジャックだと、思いこんでいるのです。
「よし、おれが、じぶんで、賢吉をつかまえてやる。まだ洞窟の中にいるにちがいない。ジャック、おまえも、てつだえ。」
首領はろうやを出ると、まっ暗な岩のトンネルの中を、グルグルと歩きはじめました。ジャックがうしろから懐中電灯をてらして、ついていきます。
しばらく歩いていきますと、むこうのほうを、小さな黒いかげが、サッとよこぎるのが見えました。
「や、いたぞ。あれが賢吉にちがいない。もう、のがさないぞ。」
ふくめんの首領は、黒いマントをひるがえして、そのほうへ走りだしました。ジャックも、あとにつづきます。
「いる、いる。あすこを走っている。たしかに賢吉のやつだっ。」
首領は、いっそう足をはやめました。子どもとおとなですから、かけっこには、かないません。追うものと、追われるもののあいだは、みるみるせばまっていきました。ああ、あぶない、賢吉君にばけた小林少年は、いまに、つかまってしまうのではないでしょうか。
「あっ、あいつ階段をのぼっている。洞窟の外へ、逃げだす気だなっ。」
首領が、走りながら、いまいましそうに、いいました。その石の階段の上には、れいの陸上にひらいている、小さな穴があるのです。
首領は、とぶように、階段にかけつけ、下から少年の服をつかもうとしました。もう三十センチぐらいで、手がとどきそうです。
しかし、少年のほうが、すばやかったのです。かれは地上への出口の、草のはえたかたい土のかたまりをおしのけて、パッと穴の外へ、とび出してしまいました。
ふくめんの首領は、すぐそのあとから、穴の外へ、顔を出しましたが、そこをひと目みると、ハッとして首をひっこめてしまいました。
穴の外に、おそろしいものがいたからです。どうして、いつのまに、やってきたのか、穴の外の林の中に、制服の警官が五―六名、ズラッとならんで、こちらをにらんでいたのです。賢吉君になりすました小林少年は、その警官のまんなかにはさまれて、にこにこして立っていました。
「たいへんだっ。警官が来た。ジャック、にげるんだ。はやく、にげるんだ。」
首領は、おおいそぎで、石の階段をかけおり、ジャックをおすようにして、洞窟のおくのほうへかけだしました。
ふたりは、グルグルまがっているトンネルの中を、死にものぐるいで走りました。そして、ついたところは、海のほうに近いひろい洞窟でした。そこには、あのおそろしい八ぴきの鉄の人魚が、ウジャウジャかたまって、すんでいるのです。