海底の魔術師

24話 怪獣の秘密

3,284字 約7分 2016年12月24日 公開

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 ひろい洞窟の中を八ぴきの鉄の人魚が、オリの中の野獣のようにかたまっていました。

 鉄でできた、おそろしい顔に、リンのように青くひかる大きな目、口は耳までさけて、そのくちびるのあいだからニューッと牙がつきだしています。全身に、鉄のウロコがはえ、頭から、背中にかけて、するどい鉄のトサカのようなギザギザがつづいています。胴体としっぽは、ワニとそっくりで、それが、やっぱり鉄でできています。大きさは、人間のおとなよりも大きいのです。

 一ぴきでもおそろしいのに、そういう怪物が八ぴきもウジャウジャかたまっているのですから、そのぶきみさは、想像もできないほどです。

 ふくめんの首領は、ジャックの持つ懐中電灯の光をたよりに、その怪獣のいわやへ、はいっていきました。そして、鉄の人魚たちにむかって、大きな声で、命令しました。

「おまえたち、よくきけ。陸の入口から、いまに警官がふみこんでくる。おまえたちは、とちゅうまでいって、あいつらを、攻撃するんだ。ひとりのこらず、穴の外へ、おい出してしまえ、そして、穴には中から大石をつめて、二度と、はいってこられないようにするんだ。わかったか。さあ、みんないっしょに、でかけるんだ。」

 鉄の怪物どもは、首領の命令を、だまって聞いていました。そして、しばらくのあいだ、シーンと、しずまりかえっていたかとおもうと、やがて、「ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ。」というたくさんの鉄が、一度にすれちがうような、おそろしい音がおこりました。鉄の人魚どもが、声をそろえて笑っているのです。

「こらっ、おまえたち、どうしたというのだ。おれがわからないのか。なぜ笑うのだ。なぜ、おれの命令にしたがわないのだっ。」

 首領が、おそろしい声でどなりました。しかし、鉄のすれあう音は、しずまるどころか、ますます、はげしくなっていきます。怪獣は、首領をばかにして、いつまでも、笑いつづけているのです。

「きさまたち、気がちがったなっ。よし、おもいしらせてやる。」

 首領はいきなり、くつばきの足をあげて、すぐそばにいた、一ぴきの人魚の顔をパッとけりました。

 すると、にわかに、「ジャ、ジャ、ジャ、ジャ。」という音が、ものすごいちょうしにかわって、八ぴきの鉄の人魚が、四方から、首領をめがけて、おそいかかってきました。

 かれらの目のリンのような光は、パッと、もえたつように強くなり、するどい牙を、ガチガチと、かみならし、するどいツメのはえた、両手をひろげて、首領のまわりをとりかこみ、いまにもくいつきそうな、ものすごい形相(ぎょうそう)をしめしました。

 さすがの怪物団の首領も、それを見ると、ゾッとしたように立ちすくんでしまいました。どうして、こんなことがおこったのか、さっぱりわけがわかりません。部下の人魚どもが、にわかに首領にそむくとは、いったい、どうしたわけなのでしょう。

 すると、そのとき、またしても、ふしぎなことがおこりました。

「ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ……。」と笑っていた怪獣の声が、とつぜん、「ワハハハハ……。」という人間の声にかわったのです。八ぴきの人魚が、人間のように笑いだしたのです。洞窟もゆれるばかりの、おそろしい笑い声でした。

 それから、ガチャンガチャンというやかましい音がしたかとおもうと、人魚どもの腹のところが、二つにわれて、その中から、はだかの人間がとび出してきました。

「ワハハハ……、どうだ、おどろいたか。おれたちは、きみの部下じゃないぞ。ハヤブサ丸からやってきた、八人の勇士だ。」

 鉄の人魚の中から、まっさきにとび出した、ひとりの若ものが、どなりつけました。なるほど部下ではありません。八人が八人とも、まったく見しらぬ人間ばかりです。それを見ると、ふくめんの首領は、あっと立ちすくんで、口をきく力もなくなってしまいました。

「アハハハ……、びっくりしているな。鉄の人魚なんて、おもちゃみたいなもんだ。鉄板でこんな形をつくって、中に酸素のボンベが三本もとりつけてある。だから、長いあいだ水中にいても、へいきなんだ。その中へ、きみの部下がはいって、われわれを、おどかしていたんだ。目がリンのように光るのは、乾電池で青い豆電灯がついているんだ。

 明智先生が、ちゃんと、それを見ぬいてしまった。そして、おれたち、はだかの勇士を海のそこへ、おくってよこしたんだ。おれたちはボンベをしょって、海のそこの洞窟の入口から、しのびこんだ。そして、水中銃で八人のきみの部下をおどかし、人魚の鉄の皮をぬがせて、おれたちがいれかわったんだ。きみの八人の部下は、手足をしばり、さるぐつわをはめて、むこうのほうの岩あなに、ころがしてあるよ。ワハハハハ……、どうだ、おどろいたか。」

 ふくめんの首領は、こんなひどいめにあったことは、いままでに一度もありません。おそろしい敗北です。しかし、ぐずぐずしている場合ではありません。八人のはだかの勇士が、いまにも、こちらへ、とびかかってきそうに見えるからです。

「ジャック、ついてこい。」

 首領は、そうさけぶと、パッと身をひるがえして、矢のように走りだしました。しかしこんどは、いったい、どこへ逃げようというのでしょう。

 かれは黒いマントをひるがえして、海のそこへの、出口のほうへ走りました。ジャックもそのあとからつづきます。

 しばらく走ると、パッと、目のまえが、ひろくなりました。そこには、海底からはいってきた水が、池のようになっているのです。ひろい洞窟の中の池です。海底からの入口は、水面のずっと下にあるのですが、洞窟がななめに上のほうへつづいているので、そのへんは、もう水面の上にあり、海水は池のように、洞窟のそこにたたえられているのです。

 その池の岸に、小さいクジラほどもある、まっくろなものが、浮いていました。賊の魚形潜航艇です。その背中に、すきとおったコブのようなものがあります。それはプラスチックのガラスでできた展望まどです。また、それはちょうつがいで上にひらくようになっていて、艇への出入り口もかねています。

 ふくめんの首領は、ジャックをひきつれて、その岸へ走っていきました。

「さあ、これにのるんだ。そして、海のそこへ逃げだすんだ。」

 そういって、水岸においてあった長い板を、魚形艇の背中にわたし、その上を歩いて、ガラスの展望まどのところへ行って、それをひらくと、いきなり、艇内へすべりこんでいきました。

「ジャック、おまえもはいれ。そして、これを運転するんだ。」

 首領によばれて、ジャックも板をわたり、艇内にすべりこんだのです。そして、展望まどを、しっかりしめ、運転席についたかとおもうと、とんきょうな声をたてました。

「あ、首領、たいへんだ。機械がメチャメチャにこわれています。」

「えっ、機械が?」

 首領もそこへとんできて機械をしらべましたが、何者かが、かなづちで、たたきこわしたらしく、とても、きゅうに修繕することはできません。

「しかたがない。さいごの逃げ場所だ。」

 首領が、したうちをして、どなりました。

「えっ、さいごの逃げ場所とは?」

「このむこうに、おれだけが知っている洞窟の枝道がある。そこへ、逃げこむんだ。」

 ふたりは、いそいで展望まどをひらき、もとの岩ぎしにもどりました。

 そして、洞窟のうしろのほうを見ると、八人のはだかの勇士と警官たちが、懐中電灯をてらして、こちらへ、いそいでくるようすです。

「さあ、はやく、こっちだ。」

 首領はジャックに声をかけて、かけだしました。そして、かどを一つまがると、岩のくぼみに立ちどまりました。そして、そこの岩のさけめに手をかけると、力まかせにひっぱって、はば約六十センチほどの岩をうごかしました。すると、そのうしろに人ひとり、やっと通れるほどの穴がひらいていたのです。

「はやく、ここへはいれ。そして、岩をもとのとおりにしておくんだ。そうすれば、だれも気がつきやしない。おれたちはたすかるのだ。」

 ふたりは、その穴の中にはいり苦心をして、岩をもとの場所にもどして、ふたをしてしまいました。

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