18話 怒る透明人間 じつは、その……
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そして、あたりにかれの主人の透明人間の姿がなさそうだと見きわめをつけると、
「あっしはぐうぜんなことから、あなたのいまおっしゃった透明人間を知っているんですよ」
「えっ? おまえが知ってるというのかい?」
「へえ、そうなんですよ。わしがやっと知りあったときのことを聞いてくだせえ。が、びっくらしねえでくだせえよ。たいへんかわったことなんだから」
「そりゃあそうだろうよ。いいよ、びっくりしねえから話してきかせなよ」
「あっしは、透明人間のようにおそろしいやつに、いままで会った……」
言いかけてトーマスはふいに、
「いててて、おおいてえ!」
苦しそうにさけび、片手で耳をおさえ、片手で本をつかんで、体をまげておかしな腰つきでベンチから立ちあがった。
透明人間は、いつのまにか、トーマスのところに帰ってきていたのだ。
トーマスが、見しらぬ船員にかれのことをしゃべりそうになると、ぐいぐいとトーマスの耳をつまみあげた。
トーマスは、透明人間が帰ってきていたと知ると、おそろしさでふるえあがってしまった。
もう、かれのことを船員にしゃべるどころではない。透明人間に耳をひっぱられ、ずるずるとくっついていくだけだった。
しかし、そんなこととは夢にも知らない船員は、びっくりしてトーマスをのぞきこみ、
「おいおい、どうかしたのかい? どこが痛いのだ?」
と心配そうにたずねた。トーマスはじりじりとベンチから遠ざかってゆきながら、
「歯が痛いんだよ。急にいたみだしたんで、おおいてえ、いてえ」
しかし、トーマスのようすはどこか変だった。歯が痛いと言いながら、片手で耳をおさえて、片手でノートをしっかりとつかんでいる。船員は、うさんくさそうにトーマスをじろじろと見て、
「おい、どうしたんだい? 透明人間のことを話すと言ったじゃないか?」
「うそでさ。いっぱいかついだだけですよ」
トーマスが苦しそうにこたえると、船員はむかっ腹をたてたらしく、
「新聞にだってのっているんだ。透明人間はたしかにいるんだ。なんだ、透明人間を知ってるなんて言って、人をかつぐ気だったのか? しかし、きさまがやつのことをしらなくても、透明人間はいるんだぞ」
「新聞だって、でたらめを書くこともありますよ。あっしは、このうそをつきはじめたやつを知ってるんですよ。やつの口から透明人間なんていうでたらめが話されて、ほうぼうへひろまっていったんですよ」
船員は、半信半疑でトーマスの顔をじっと見つめた。
「だが、新聞にのっているし……りっぱな人たちが証人になってるしな」
「うそですよ。うそですよ。だれがなんと言ったってうそにきまってますよ。ばかばかしい、透明人間なんてものが、いまの世の中にいるはずがないじゃありませんか」
トーマスは必死になって、がんこに言いはった。船員はおもしろくない顔をして、
「それほどはっきりうそとわかっているなら、なんだってはじめにうそだと言わねえんだ」
「なにっ!」
二人は、ぐっとにらみあった。いまにもどちらからか、げんこのつぶてが飛んできそうなあんばいだった。
「トーマス、ぐずぐずするな、おれといっしょにくるんだ」
とつぜん、空中から声がした。
トーマスは、はっとしたようで、そのまま、おかしな腰つきでひょこひょこ歩きだした。
「逃げるのか」
船員がうしろからどなった。
「逃げるもんか」
トーマスはくるりとむきなおろうとしたが、あべこべにつきとばされるように、前へとんとんとつんのめった。
そして、それっきり後もみずに船員から遠ざかっていった。
だれかと言いあらそいでもしているようなつぶやきが、いつまでも聞こえていた。
船員は、大またをひろげ腰に両手をあてがって、遠ざかっていく相手をにらみつけ、
「あいつは新聞が読めねえんだよ。なにがうそだい。目を大きくあけて新聞をみろ、ちゃんとくわしく書いてあるから、まぬけめ!」
声のつづくかぎり、どなりまくっていた。