透明人間

18話 怒る透明人間 じつは、その……

1,609字 約3分 2010年8月22日 公開

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 そして、あたりにかれの主人(しゅじん)透明人間(とうめいにんげん)の姿がなさそうだと見きわめをつけると、

「あっしはぐうぜんなことから、あなたのいまおっしゃった透明人間(とうめいにんげん)を知っているんですよ」

「えっ? おまえが知ってるというのかい?」

「へえ、そうなんですよ。わしがやっと知りあったときのことを聞いてくだせえ。が、びっくらしねえでくだせえよ。たいへんかわったことなんだから」

「そりゃあそうだろうよ。いいよ、びっくりしねえから話してきかせなよ」

「あっしは、透明人間のようにおそろしいやつに、いままで()った……」

 言いかけてトーマスはふいに、

「いててて、おおいてえ!」

 苦しそうにさけび、片手で耳をおさえ、片手で本をつかんで、(からだ)をまげておかしな(こし)つきでベンチから立ちあがった。

 透明人間(とうめいにんげん)は、いつのまにか、トーマスのところに帰ってきていたのだ。

 トーマスが、見しらぬ船員にかれのことをしゃべりそうになると、ぐいぐいとトーマスの耳をつまみあげた。

 トーマスは、透明人間が(かえ)ってきていたと知ると、おそろしさでふるえあがってしまった。

 もう、かれのことを船員(せんいん)にしゃべるどころではない。透明人間に耳をひっぱられ、ずるずるとくっついていくだけだった。

 しかし、そんなこととは(ゆめ)にも知らない船員(せんいん)は、びっくりしてトーマスをのぞきこみ、

「おいおい、どうかしたのかい? どこが(いた)いのだ?」

心配(しんぱい)そうにたずねた。トーマスはじりじりとベンチから(とお)ざかってゆきながら、

()(いた)いんだよ。急にいたみだしたんで、おおいてえ、いてえ」

 しかし、トーマスのようすはどこか(へん)だった。歯が痛いと言いながら、片手(かたて)で耳をおさえて、片手(かたて)でノートをしっかりとつかんでいる。船員は、うさんくさそうにトーマスをじろじろと見て、

「おい、どうしたんだい? 透明人間(とうめいにんげん)のことを話すと言ったじゃないか?」

「うそでさ。いっぱいかついだだけですよ」

 トーマスが(くる)しそうにこたえると、船員(せんいん)はむかっ(ぱら)をたてたらしく、

「新聞にだってのっているんだ。透明人間はたしかにいるんだ。なんだ、透明人間を知ってるなんて言って、人をかつぐ気だったのか? しかし、きさまがやつのことをしらなくても、透明人間はいるんだぞ」

新聞(しんぶん)だって、でたらめを書くこともありますよ。あっしは、このうそをつきはじめたやつを知ってるんですよ。やつの口から透明人間(とうめいにんげん)なんていうでたらめが話されて、ほうぼうへひろまっていったんですよ」

 船員は、半信半疑(はんしんはんぎ)でトーマスの顔をじっと見つめた。

「だが、新聞にのっているし……りっぱな人たちが証人(しょうにん)になってるしな」

「うそですよ。うそですよ。だれがなんと言ったってうそにきまってますよ。ばかばかしい、透明人間(とうめいにんげん)なんてものが、いまの世の中にいるはずがないじゃありませんか」

 トーマスは必死(ひっし)になって、がんこに言いはった。船員はおもしろくない顔をして、

「それほどはっきりうそとわかっているなら、なんだってはじめにうそだと言わねえんだ」

「なにっ!」

 二人は、ぐっとにらみあった。いまにもどちらからか、げんこのつぶてが飛んできそうなあんばいだった。

「トーマス、ぐずぐずするな、おれといっしょにくるんだ」

 とつぜん、空中(くうちゅう)から声がした。

 トーマスは、はっとしたようで、そのまま、おかしな(こし)つきでひょこひょこ歩きだした。

()げるのか」

 船員がうしろからどなった。

「逃げるもんか」

 トーマスはくるりとむきなおろうとしたが、あべこべにつきとばされるように、前へとんとんとつんのめった。

 そして、それっきり(あと)もみずに船員(せんいん)から遠ざかっていった。

 だれかと言いあらそいでもしているようなつぶやきが、いつまでも聞こえていた。

 船員は、大またをひろげ(こし)に両手をあてがって、遠ざかっていく相手をにらみつけ、

「あいつは新聞(しんぶん)が読めねえんだよ。なにがうそだい。目を大きくあけて新聞をみろ、ちゃんとくわしく書いてあるから、まぬけめ!」

 声のつづくかぎり、どなりまくっていた。

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