自然の復讐

6話

768字 約2分 2019年11月18日 公開

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 さて、今日の制度のまゝでは、自然を征服して文明を進めれば進めるほど自然から劇しく復讐せられるとすれば、今後は自然を征服することを全く止めて、唯々自然に従ふては如何と論ずる人があるかも知れぬが、之れは素より甚だ不得策である。地球の上には多数の異なつた民族が対立して互に隙を覘ふて居る故、一刻でも油断して競争に後れるが如きことが有つてはならぬ。而して、民族間の競争には、如何なる者が勝ち、如何なる者が敗けるかと云へば、他の点が総べて同等である場合には、自然の征服に一歩でも先へ進んだ者が必ず他に勝つ訳である故、若し研究を怠り、努力を休んで、自然の征服を務めずに居たならば自然の復讐を受けることは或は軽く済むかも知れぬが、其の代り忽ち他の民族のために圧伏せられて、更に苦しい位置に落ちねばならぬ。されば、今日の各民族は、復讐を受けることは止むを得ぬと覚悟して益々自然を征服することを務めるより外に途は無いのである。自然から如何なる復讐を受け、自己の民族内に如何なる困難な社会問題が起らうとも、他民族に征服せられて、其の虐待を受けるのに比しては、遙に忍び易いであらう。之を物に譬へて云へば、恰も病人が商売上の激しい競争に従事して居る如くで、進んで競争に努力すれば、商売には勝つて店が盛になる代りに、病を押した自然の復讐として少しづゝ重態に陥るは止むを得ない。併しながら、病を思ふて競争を見放せば、忽ち零落して、路頭に迷ひ餓死せざるを得ぬのであるから、之に比すれば、病は少々重く成つても、競争に勝つた方が、遙に寿命が長く保てる。今日の各民族は略々斯様な状態にある故、一方に社会問題の解決に尽力しながら、他方には何所までも自然の征服に務め、物質的の文明を進めて、一歩でも、他の民族に先んずる様にと心掛けることが肝要であらう。

(明治四十四年十一月)

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