照葉狂言

6話 仙冠者 二

1,230字 約2分 2013年7月25日 公開

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 肩幅広く、胸張りて、頬に肥肉(しし)つき、顔(まろ)く、色の黒き少年なりき。腕力(ちから)もあり、年紀(とし)()けたり、門閥も(たっと)ければ、近隣の少年等みな国麿に従いぬ。

 厚紙もて烏帽子(えぼし)を作りて(こうむ)り、(はたき)を腰に挿したるもの、顱巻(はちまき)をしたるもの、十手を携えたるもの、物干棹(ものほしざお)(にな)えるものなど、五三人左右に引着けて、(かれ)は常に宮の(きざはし)の正面に身構えつ、稲葉太郎荒象園(こうぞうえん)鬼門(おにかど)なりと名告(なの)りたり。さて常にわが広岡の姉上に逢わむとて()くを、などさは女々(めめ)しき振舞する。ともに遊べ、なかまにならば、仙冠者牛若三郎という美少年の豪傑になさむと言いき。仙冠者は稲葉なにがしの弟にて、魔術をよくし、空中を飛行(ひぎょう)せしとや。仙冠者をわれ嫌うにあらねど、誰か甘んじて国麿の弟たらむ。

 言うこと()かざるを(いた)く憎み、きびしくその手下に命じて、われと遊ぶことなからしめたり。さらぬも近隣の少年は、わが袖長き(きぬ)を着て、()き帯したるを(うとん)じて、宵々には組を造りて町中(まちなか)を横行しつつ、我が(かど)に集いては、軒に懸けたる提灯(ちょうちん)(つぶて)を投じて口々に(ののし)りぬ。母上の名、仮名もてその神燈に記されたり。亡き人に礫打たしては、仏を辱かしめむとて、当時わが家をば預りたまえる、伯母の君(ほか)のに取りかえたまいぬ。

 かかりし少年の腕力あり門閥ある頭領を得たるなれば、何とて我威を(ふる)わざるべき。姉上に逢わむとて木槿垣(むくげがき)()(みち)、まず一人物干棹をもて一文字に遮り(とど)む。十手持ちたるが引添いて(まなこ)を配り、顱巻したるが肩をあげて()め着くる。その中にやさしき顔のかの烏帽子(かぶ)れる()(はたき)をば、国麿の引取りて、背後(うしろ)(かた)に居て、片手を尻下りに結びたる帯にはさみて、鷹揚(おうよう)指揮(さしず)するなり。

 わびたりとて肯くべきにあらず、しおしおと引返す本意(ほい)なき日数(ひかず)こそ積りたれ。忘れぬは(わが)ために、この時嬉しかりし楓にこそ。

 その枝のさき近々と窓の前にさしいでたれば、広岡のかの君は二階にのぼりて、此方(こなた)(てすり)(つか)まりたるわが顔を見て微笑(ほほえ)みたまいつつ、(かいな)さしのべて、葉さきをつまみ、(しな)いたる枝を引寄せて、折鶴、(みみずく)(ひいな)の形に切りたるなど、色ある紙あまた引結いてはソト放したまう。小枝は葉摺(はず)れしてさらさらと此方に撓いて来つ。風少しある時殊に美しきは、金紙(きんし)、銀紙を(こまか)く刻みて、蝶の形にしたるなりき。

 雨の日はいかにしけむ、今われ覚えておらず。(うらら)かなる空をば一群(ひとむれ)(はと)輪をつくりて舞うが、姉上とわれと(むか)いあえるに()れて、恐気(おそれげ)なく、此方(こなた)の軒、彼方(かなた)の屋根に(さっ)(おろ)しては翼を休めて、(ひさし)にも居たり。物干場の棹にも居たり。棟にも居たり。みな表町(おもてまち)なる大通(おおどおり)の富有の家に飼われしなりき。夕越(ゆうごえ)くれば一斉に(ねぐら)に帰る。やや人足繁く、戸外(おもて)往来(ゆきか)うが皆あおぎて見つ。楓にはいろいろのもの結ばれたり。

 そのまま置きて一夜(ひとよ)を過すに、あくる日はまた姉上の新たに結びたまわでは、昨日(きのう)なるは大方()せて見えずなりぬ。

 手届きて人の奪うべくもあらねば、町の外れなる酒屋の(くら)観世物(みせもの)小屋の間に住めりと人々の言いあえる、恐しき野衾(のぶすま)の来て(さら)えて()くと、われはおさなき心に思いき。

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