16話 四つの都 一六 京都。
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バスの通る町。
「あ、待ってくれ」
と、一人の産業戦士風の男が叫びながらトランクをかゝえて、駈け出して来る。
船山という傷痍軍人である。
船山「そのバス待ってくれ!」
駈け出しながら、バスの窓へ向って、
船山「軍医殿、中瀬古中尉殿!」
と、叫ぶ。
バスの中では――
庄平が窓を開けて、顔を出す。
庄平(船山に気づいて)「おう、船山上等兵!」
船山はいきなり立ち停って、敬礼する。
その隙にバスは遠ざかる。船山慌てゝ後を追う。
庄平(怒鳴る)「走っちゃ駄目だ! 走るな!」
船山はきかず、走って来る。
庄平「停れ! 船山上等兵停れ! 停らんか!」
その拍子にバスは停る。しかし、そこは停るべくして停る停留所である。車内笑う。
庄平、急いでバスを降りると、神妙に停っている船山の方へ、走って行く。
船山、挙手の礼をする。庄平、応ず。
船山「軍医殿、久し振りであります」
庄平「うん、その後身体の方はどうだ?」
船山「至極健康であります、その節は野戦病院で軍医殿にいろ/\御厄介になり、申し訳ありません」
庄平「健康で何よりだ、しかし、何といっても病後だからな、走ったり、無理な事をしてはいかん」
船山「走らないと、軍医殿のバスを見失いそうでありましたから」