四つの都

23話 四つの都 二三 町の一角。

1,075字 約2分 2013年7月30日 公開

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新聞配達の少年、町角を曲る。犬が吠えている。

庄平が、雨がやんでいるのに傘をさして歩いて来て、少年を掴まえて道を訊く。

庄平「君、三十二番地はどの辺?」

少年「さあ、知りまへん、僕はまだ新米やさかい」

少年行ってしまう。

町角から、初枝が勤労奉仕の女生徒を引率して(先頭になって)現れる。

庄平、相変らず傘をさしたまゝ、

庄平「一寸おたずねしますが」

初枝「はあ」

立ち停る。

生徒は初枝に構わず行進する。

庄平「三十二番地はどの辺でしょうか」

初枝「三十二番地? さあ、たしかこの通りだと思いますが……(生徒に向って)停れ!」

初枝、生徒の方へ行く。庄平のこ/\随いて行く。

初枝「誰か三十二番地を知ってる方はありませんか、三十二番地」

生徒A「はい、三十二番地はこの通りです」

庄平「有難う(生徒Aに)矢野さんという家どこか知ってる?」

生徒A「さあ」(考える)

初枝「矢野さん? 矢野さんのお宅でしたら、この裏の通りに一軒ございますけど、でも、そこなら、たしか二十二番地だと思いますが」

庄平(あやしくなって手帳を見る)「え、と一寸待って下さい、あ、二十二番地でした、僕の間違いでした、二十二番地の矢野和子さんです」

初枝「矢野和子さん? その方をお訪ねになるのですの?」

庄平「えゝ」

初枝「その方なら、去年お亡くなりになられましたが」

庄平「そんな筈はないです、げんに僕は……」

初枝(生徒に向って)「静かにして、静かに」

庄平「げんに僕は三月前にその方から慰問袋を戴いてるんです……兎に角行ってみましょう、有難う」

行きかけて、引き返し、

庄平「……こっちですか」

初枝(微笑して)「いゝえ、こちらです、私達学校への帰り道ですから、御案内しますわ」

庄平「恐縮ですね」

初枝(生徒に向って)「前へ進め!」

一同前進する。

初枝、庄平が傘をさしているのを見て、くす/\笑う。生徒も同様。前方に、節子が地図を見ながら佇んでいる。雨に濡れて、何かしょんぼりした後ろ姿。

一同は節子の傍を通り過ぎようとする。

節子、庄平を見つける。

節子「軍医さん!」

庄平(歩きながら)「やあ」

節子稍寂しい顔で随いて行く。

庄平「また迷子になってるんじゃないですか」

節子「えゝ、二十二番地はどの辺でしょうか」

庄平、初枝と顔を見合せる。

初枝「二十二番地の何というお家ですの」

節子「古道具屋さんなんですけれど、大雅堂という……」

初枝「あ、それなら……御案内しますわ」

節子「はあ、どうも……」

庄平(初枝に)「あなた方は傘は……?」

初枝「はあ、でも、もう雨はあがってますから」

庄平(済ました顔で)「あ、そうですか」

庄平、傘を畳む。

生徒、笑う。

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