23話 四つの都 二三 町の一角。
読み方を変える
新聞配達の少年、町角を曲る。犬が吠えている。
庄平が、雨がやんでいるのに傘をさして歩いて来て、少年を掴まえて道を訊く。
庄平「君、三十二番地はどの辺?」
少年「さあ、知りまへん、僕はまだ新米やさかい」
少年行ってしまう。
町角から、初枝が勤労奉仕の女生徒を引率して(先頭になって)現れる。
庄平、相変らず傘をさしたまゝ、
庄平「一寸おたずねしますが」
初枝「はあ」
立ち停る。
生徒は初枝に構わず行進する。
庄平「三十二番地はどの辺でしょうか」
初枝「三十二番地? さあ、たしかこの通りだと思いますが……(生徒に向って)停れ!」
初枝、生徒の方へ行く。庄平のこ/\随いて行く。
初枝「誰か三十二番地を知ってる方はありませんか、三十二番地」
生徒A「はい、三十二番地はこの通りです」
庄平「有難う(生徒Aに)矢野さんという家どこか知ってる?」
生徒A「さあ」(考える)
初枝「矢野さん? 矢野さんのお宅でしたら、この裏の通りに一軒ございますけど、でも、そこなら、たしか二十二番地だと思いますが」
庄平(あやしくなって手帳を見る)「え、と一寸待って下さい、あ、二十二番地でした、僕の間違いでした、二十二番地の矢野和子さんです」
初枝「矢野和子さん? その方をお訪ねになるのですの?」
庄平「えゝ」
初枝「その方なら、去年お亡くなりになられましたが」
庄平「そんな筈はないです、げんに僕は……」
初枝(生徒に向って)「静かにして、静かに」
庄平「げんに僕は三月前にその方から慰問袋を戴いてるんです……兎に角行ってみましょう、有難う」
行きかけて、引き返し、
庄平「……こっちですか」
初枝(微笑して)「いゝえ、こちらです、私達学校への帰り道ですから、御案内しますわ」
庄平「恐縮ですね」
初枝(生徒に向って)「前へ進め!」
一同前進する。
初枝、庄平が傘をさしているのを見て、くす/\笑う。生徒も同様。前方に、節子が地図を見ながら佇んでいる。雨に濡れて、何かしょんぼりした後ろ姿。
一同は節子の傍を通り過ぎようとする。
節子、庄平を見つける。
節子「軍医さん!」
庄平(歩きながら)「やあ」
節子稍寂しい顔で随いて行く。
庄平「また迷子になってるんじゃないですか」
節子「えゝ、二十二番地はどの辺でしょうか」
庄平、初枝と顔を見合せる。
初枝「二十二番地の何というお家ですの」
節子「古道具屋さんなんですけれど、大雅堂という……」
初枝「あ、それなら……御案内しますわ」
節子「はあ、どうも……」
庄平(初枝に)「あなた方は傘は……?」
初枝「はあ、でも、もう雨はあがってますから」
庄平(済ました顔で)「あ、そうですか」
庄平、傘を畳む。
生徒、笑う。