4話 四つの都 四 町。
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新吉が雨の中を、新聞を配って一心に走っている。ここは、道が碁盤の目のように細かく分れているので、新吉はこの町角を右へ折れ、次の町角を左へ折れ、第三の町角を右へ折れ……など実に忙しい想いをしなければならない。
そして、やっと自分の住んでいる町へ来る。
薬局があり、銭湯があり、大衆食堂があり、産婆があり、本屋があり、歯医者があり、煙草屋があり、寄席があり、ラジオ屋があり、標札屋があり、古道具屋のある町である。露地の多い町で、例えば標札屋と、ラジオ屋を二軒中にはさんで、凹の字に通ずる露地がある。――その凹の露地の一方の入口へはいった新吉は、新聞を露地の家々へ配って、あっという間に、別の入口から――出て来たところは、矢野名曲堂の表である。(自分の家だ)新吉が家の前で繃帯をとっていると、夜店出しのおっさんが、車を曳いて帰ってくる。
新吉「おっさん、もう帰りか? えらい早かったなァ」
夜店出し「早かったどころかいな。今日は休みや。場割りが済んで、さあ店を張ろうとおもたら、降って来やがったさかい……夜店出しもこう雨が多かったら、さっぱり売にならんわ」
夜店出し、露地の中へ入ってゆく。
新吉、繃帯をとり終って、家の中へ這入る。
途端に店の中の音楽が聴える。