四つの都

8話 四つの都 八 第二の汽車。

542字 約1分 2013年7月30日 公開

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その二等車の窓があいて、帰還姿の軍医中尉、中瀬古庄平がぬっと顔を出す。

庄平「おい、弁当!」

処が、弁当を売ってるのは反対の窓である。

庄平、苦笑しながら、反対側の窓へ寄って行く。

そして、窓から身体を乗出す。

弁当売りは却々(〔なかなか〕)やって来ない。

発車のベルが鳴り始める。

庄平(いきなり怒鳴る)「弁当屋! 駈足!」

弁当売り慌てゝ飛んで来る。……

汽車はもう動いている。

庄平の座席の向いの席では、洋装の女即ち辻節子が、小型の旅行携帯用の将棋盤を洋装の膝の上に載せて、頻りに詰将棋を考えている。そこへ、弁当を持った庄平が戻って来て、弁当を食べながら、将棋盤の方をちら/\見る。

節子は、なか/\詰められない模様である。庄平もどかしがる。

そこへ、車掌が帽子をとってはいって来る。

車掌「お医者様はおられませんか、お客様の中にお医者様はおられませんか」

車内、何事が起ったのかと動揺する。

車掌が傍を通りかゝると、いきなり庄平が起ち上って、

庄平「僕は医者ですが」

車掌「あなたが……?」

と不思議そうにする。

庄平「軍医です」

車掌(判って)「実は車内に急病人が出来ましたので……」

庄平は頷いて、トランクの中から、医療器具を取出しながら、

庄平「病人はどこです」

車掌「車掌室に寝かせてあります」

庄平「寝ておられますと言い給え……」

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