4話 三(2)
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読者よ、かくの如きは湖の宮殿に至る階の一段に過ぎない。其の片扉にして、写し得たる一景さへこれである。五彩の漣は鴛鴦を浮べ、沖の巌は羽音とゝもに鵜を放ち、千仭の断崖の帳は、藍瓶の淵に染まつて、黒き蠑の其の丈大蛇の如きを沈めて暗い。数々の深秘と、凄麗と、荘厳とを想はれよ。
――いま、其の奥殿に到らずとも、真情は通じよう。湖神のうけ給ふと否とを料らず、私は階に、かしは手を打つた。
ひそかに思ふ。湖の全景は、月宮よりして、幹紫に葉の碧なる、玉の枝より、金色の斧で伐つて擲つたる、偉なる胡桃の実の、割目に青い露を湛へたのであらう。まつたく一寸胡桃に似て居る。(完)