探偵少年

10話 怪老人

1,803字 約4分 2018年8月12日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

 少年たちは、そこに立ちすくんだまま、身うごきもできなくなりました。ダイヤのようなトラの目ににらみつけられて、からだがすくんでしまったのです。

 トラは、まっかな口でかみつこうとしています。あの口が、もう十センチさがったら、井上君はやられてしまうでしょう。ああ、いまにも、いまにも!

「ワハハハハ……。」

 そのとき、どこからか、おそろしい笑い声がひびいてきました。それがどうくつにこだまして、いくにんもの人が、笑っているように聞こえます。

 いったい、だれが笑ったのでしょう。少年たちが笑うはずはありません。それに、いまの笑い声は、太いおとなの声でした。

 井上君をおさえつけていた金色のトラが、パッと、あと足で立ちあがりました。

 少年たちは、いまにも、こちらへとびかかってくるのかと、もう、生きたここちもありません。

「ワハハハハ……。」

 またしても、おそろしい笑い声です。そして、その声が消えていったとき、じつに、ふしぎなことがおこりました。

 金色のトラは、あと足で立ちあがって、まえ足で、じぶんの頭を、かかえたかとおもうと、そのまえ足を、グッと上にあげました。すると、トラの首が胴体からちぎれて、スーッと空中に浮きあがったのです。首がぬけてしまったのです。そして、その下から人間のじいさんの顔が、ヌーッと、あらわれてきたではありませんか。

 ひげののびた、きたないじいさんの顔です。トラのなかに、じいさんがはいっていたのです。

「あっ、さっきの山小屋のじいさんだっ!」

 少年のひとりが、さけびました。

「ワハハハハ……、おめえら、たまげただか。日本の山にトラがいるわけはねえ。おらがトラにばけて、ちょっくら、おめえらを、おどかしてくれただあ。」

 やっぱり、あの山小屋の猟師のじいさんでした。それにしても、じいさんは、こんなりっぱなトラの皮を、どこから手にいれたのでしょう。また、いったい、なんのために、金のトラなんかにばけたのでしょう。

「エヘヘヘヘ……、いまに、びっくらすることが、おこるだぞ。」

 じいさんは、うすきみわるく笑いました。

 山小屋のじいさんは、かぶっていたトラの皮を、すっかり、ぬぎすててしまいました。少年たちが、あっとおどろいていると、こんどは、もっとふしぎなことがおこったのです。

 じいさんは、むこうをむいて、なにかやっていましたが、クルッと、こちらにむきかえったときには、まるでちがったおそろしい顔に、かわっていました。

「あっ、魔法博士だっ!」

 少年団のだれかが、さけびました。

 それは、あのぶきみな西洋悪魔のような、魔法博士の顔だったのです。

「アハハハ……、どうだ、おどろいたか。わしじゃよ。わしは山小屋のじいさんにばけて、きみたちのやってくるのを見はっていた。道しるべのひもを切ったのも、板の橋をはずしたのも、このわしじゃ。

 それから、この金色のトラの皮を、スッポリかぶって、べつの道からさきまわりをして、きみたちを待っていたのじゃ。」

 それをきくと、小林少年が、ツカツカと前に進みました。

「それじゃ、このあいだの晩、ぼくが自動車のトランクにしのびこんで、尾行したのを、ちゃんと知っていたのですか。」

 魔法博士は、にやにや笑ってこたえました。

「きみが尾行したことは、むろん知っていたよ。はじめから、きみたちを、ここへおびきよせるつもりだったからね。そして、きみたちのどきょうを、ためしてみたのさ。だから、この鍾乳洞のなかを、いくらさがしても、黄金のトラは、みつからないよ。あれは、もっとべつのところに、かくしてあるのだ。

 しかし、まだきみたちが、負けたわけじゃない。はじめに約束したとおり、二ヵ月のあいだに、探しだせばよいのだから。まだ、たっぷり、よゆうがあるのだよ。

 さあ、いよいよ、むずかしくなってきたね。きみたちは、もう、まったく手がかりが、なくなってしまったのだ。だが、あんしんしたまえ。きみたちが、こんな冒険をやったほうびに、手がかりをおしえるよ。

 きみたち、黄金のトラは、どこにかくしてあるとおもうね。もちろん、このどうくつのなかじゃない。ハハハ……それはね、きみたちの目の前にあったのだよ。いまに、見せてあげるよ。」

 魔法博士は、むこうのほら穴へはいっていって、長い板をもちだしてきました。岩のさけめにかけてあった、あの板です。それを、もとのとおりにかけて、みんなが渡りました。

目次に戻る

目次