10話 怪老人
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少年たちは、そこに立ちすくんだまま、身うごきもできなくなりました。ダイヤのようなトラの目ににらみつけられて、からだがすくんでしまったのです。
トラは、まっかな口でかみつこうとしています。あの口が、もう十センチさがったら、井上君はやられてしまうでしょう。ああ、いまにも、いまにも!
「ワハハハハ……。」
そのとき、どこからか、おそろしい笑い声がひびいてきました。それがどうくつにこだまして、いくにんもの人が、笑っているように聞こえます。
いったい、だれが笑ったのでしょう。少年たちが笑うはずはありません。それに、いまの笑い声は、太いおとなの声でした。
井上君をおさえつけていた金色のトラが、パッと、あと足で立ちあがりました。
少年たちは、いまにも、こちらへとびかかってくるのかと、もう、生きたここちもありません。
「ワハハハハ……。」
またしても、おそろしい笑い声です。そして、その声が消えていったとき、じつに、ふしぎなことがおこりました。
金色のトラは、あと足で立ちあがって、まえ足で、じぶんの頭を、かかえたかとおもうと、そのまえ足を、グッと上にあげました。すると、トラの首が胴体からちぎれて、スーッと空中に浮きあがったのです。首がぬけてしまったのです。そして、その下から人間のじいさんの顔が、ヌーッと、あらわれてきたではありませんか。
ひげののびた、きたないじいさんの顔です。トラのなかに、じいさんがはいっていたのです。
「あっ、さっきの山小屋のじいさんだっ!」
少年のひとりが、さけびました。
「ワハハハハ……、おめえら、たまげただか。日本の山にトラがいるわけはねえ。おらがトラにばけて、ちょっくら、おめえらを、おどかしてくれただあ。」
やっぱり、あの山小屋の猟師のじいさんでした。それにしても、じいさんは、こんなりっぱなトラの皮を、どこから手にいれたのでしょう。また、いったい、なんのために、金のトラなんかにばけたのでしょう。
「エヘヘヘヘ……、いまに、びっくらすることが、おこるだぞ。」
じいさんは、うすきみわるく笑いました。
山小屋のじいさんは、かぶっていたトラの皮を、すっかり、ぬぎすててしまいました。少年たちが、あっとおどろいていると、こんどは、もっとふしぎなことがおこったのです。
じいさんは、むこうをむいて、なにかやっていましたが、クルッと、こちらにむきかえったときには、まるでちがったおそろしい顔に、かわっていました。
「あっ、魔法博士だっ!」
少年団のだれかが、さけびました。
それは、あのぶきみな西洋悪魔のような、魔法博士の顔だったのです。
「アハハハ……、どうだ、おどろいたか。わしじゃよ。わしは山小屋のじいさんにばけて、きみたちのやってくるのを見はっていた。道しるべのひもを切ったのも、板の橋をはずしたのも、このわしじゃ。
それから、この金色のトラの皮を、スッポリかぶって、べつの道からさきまわりをして、きみたちを待っていたのじゃ。」
それをきくと、小林少年が、ツカツカと前に進みました。
「それじゃ、このあいだの晩、ぼくが自動車のトランクにしのびこんで、尾行したのを、ちゃんと知っていたのですか。」
魔法博士は、にやにや笑ってこたえました。
「きみが尾行したことは、むろん知っていたよ。はじめから、きみたちを、ここへおびきよせるつもりだったからね。そして、きみたちのどきょうを、ためしてみたのさ。だから、この鍾乳洞のなかを、いくらさがしても、黄金のトラは、みつからないよ。あれは、もっとべつのところに、かくしてあるのだ。
しかし、まだきみたちが、負けたわけじゃない。はじめに約束したとおり、二ヵ月のあいだに、探しだせばよいのだから。まだ、たっぷり、よゆうがあるのだよ。
さあ、いよいよ、むずかしくなってきたね。きみたちは、もう、まったく手がかりが、なくなってしまったのだ。だが、あんしんしたまえ。きみたちが、こんな冒険をやったほうびに、手がかりをおしえるよ。
きみたち、黄金のトラは、どこにかくしてあるとおもうね。もちろん、このどうくつのなかじゃない。ハハハ……それはね、きみたちの目の前にあったのだよ。いまに、見せてあげるよ。」
魔法博士は、むこうのほら穴へはいっていって、長い板をもちだしてきました。岩のさけめにかけてあった、あの板です。それを、もとのとおりにかけて、みんなが渡りました。