探偵少年

15話 白いランチ

2,300字 約5分 2018年8月12日 公開

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 そこは、荒川(あらかわ)区の隅田川(すみだがわ)の上流でした。

 青色自動車は、長い橋のてまえで速度をゆるめ、川っぷちを右のほうへまがりましたが、すぐひきかえして、橋を渡っていきます。

「あっ、じいさんの姿が見えない。どうしたんだろう?」

 今井君が、それに気づいて、さけびました。

 青い自動車には、運転手がのっているだけで、うしろの席は、からっぽです。

「さっき、橋のてまえで速度をゆるめたとき、とびおりたのかもしれない。探してみよう。」

 小林君は、今井君のにいさんに、車をとめるようにたのみ、三人は、そこでおりて、川っぷちを右へ歩いていきましたが、じいさんの姿は、どこにも見えません。

 そこには、大きな工場のへいが、ズーッとつづいていて、見るかぎり人通りもありません。川っぷちには、コンクリート工事のバラックの事務所がたっています。

 小林君は、なにをおもったのか、そのバラックの戸をあけて、のぞいて見ました。なかには、たったひとり、三十五―六歳の労働者が、いすにかけて、タバコをスパスパやっているばかりです。

 バラック小屋には、隅田川のほうにも、川岸の道のほうにも、ガラス窓がついていました。そのなかでタバコをすっている労働者は、道のほうをむいていましたから、さっきのじいさんが、外を通れば気がついたはずです。

「おじさん、いま、ここを、トルコ帽をかぶった白ひげのじいさんが、通らなかったですか。」

 小林君が、たずねると、その男はジロッと、こちらを見てこたえました。

「うん、じいさんのくせに、かけだしていったぜ。あっちのほうへね。」

「ありがとう。」

 小林君は、バラックの戸をしめて、そこに待っていた今井君兄弟といっしょに歩きだしましたが、バラックから、すこしはなれると……、小林君は、とつぜん、立ちどまって、今井君の耳に口をつけ、なにかささやきました。すると、今井君は、うなずいて見せて、

「うん、わかった。しっかりやりたまえ。」

といって、そのまま、にいさんといっしょに、川岸を、ドンドンむこうのほうへ、走っていきました。むろん、白ひげのじいさんを、探すためでしょう。なぜか、小林君だけがあとにのこったのです。

 あとにのこった小林君は、川っぷちを伝って、すばやくバラック小屋のうしろに身をかくし、そこの窓から、ソッと、なかをのぞきました。

 しばらく、のぞいていましたが、やがてニッコリ笑うと、そのまま橋のたもとへ走っていって、そこにとめてあった、さっきの自動車のなかへ、姿を消してしまいました。

 三分ほどすると、自動車のドアがソッと開いて、なかから、みょうな子どもが出てきました。やぶれセーターに、やぶれズボン、あたまの毛は、ボウボウとのびて、一年もふろにはいらないような、まっくろな顔。こじきみたいな少年です。

 こじき少年は、両手をズボンのポケットにつっこんで、ブラリ、ブラリと、バラック小屋のほうへ歩いていきます。

 小屋のよこまでくると、バラックの壁にもたれて、しゃがんでしまいました。そして、ぼんやりと、隅田川をながめています。

 しばらくすると、川しものほうから、一そうの白いランチが(のぼ)ってきて、バラックのうしろの岸に近づくと、そこへ、よこづけになりました。こじき少年は、バラックのかげに身をかくして、じっと、それを見ていました。

 すると、バラック小屋のうしろの戸が開いて、さっきタバコをすっていた男が、黒いふろしきづつみを持って出てきました。そして、あたりを、キョロキョロ見まわしてから、よこづけになっているランチのなかへ、はいっていくのです。

 バラックのかげで、それを見ていたこじき少年は、なにをおもったのか、ポケットから紙とエンピツを取りだしました。

 その紙に手紙のようなものを書いて、四つにおると、川っぷちの大きな石の上におき、風でとばないように、小石をひろっておもしにしました。それから、地面をはうようにしてランチに近づき、パッとその甲板(かんぱん)にとびのると、すばやく、ものかげに、姿をかくしました。

 みなさん、この少年は、いったい、なにものでしょうか。

 こちらは白いランチの船室のなかです。いま、のりこんできた労働者のような男を、ふたりの船員が、ていねいに、迎えました。

「先生、うまくいきましたか。」

 船員がたずねますと、男は、ワハハハと笑って、持っていた黒いふろしきづつみをほどきました。すると、なかから、しらがのカツラや、つけひげや、トルコ帽や、茶色のコートが出てきました。

「さすがに、小林団長はぬけめがない。自動車で見はっていて、わしを、追跡してきたよ。だが、こちらには、おくの手がある。車のなかで労働者に変装して、このバラックへとびこんだ。小林君が戸をあけたときには、はっとしたが、わしの変装が見やぶれるものじゃない。じいさんは、あっちへ逃げたと、うそを、おしえてやったよ。ハハハ……。」

 労働者にばけていたのは、魔法博士だったのです。まず白ひげのじいさんに変装して、黄金のトラを盗みだし、自動車のなかで手ばやく労働者にばけて、バラック小屋にかけこみ、タバコをふかして、すましていたのです。

 はじめから、ここで船にのるつもりだったので、じぶんのランチを、ここへ、まわすように命じておいたのでした。

「先生、黄金のトラはだいじょうぶですか。」

 部下の船員がたずねますと、博士は笑って、

「ちゃんと、ここにあるよ。」

といいながら、ポケットから、セトモノに見せかけたトラを出して、えのぐをこすりとると、ピカピカ光る金色が、あらわれてきました。

「さあ、島へいそぐんだ。全速力だよ。」

 島とは、いったい、どこの島なのでしょうか。

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