探偵少年

17話 あぶない、こじき少年

1,880字 約4分 2018年8月12日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

 魔法博士は、黒シャツ姿のまま、ヘリコプターをおりて、二階だての大きな西洋館の玄関にまわって、そこから、なかへはいっていきます。ここも、博士のかくれがの、ひとつなのでしょう。玄関のホールへ、黒い服をきた若い男がとびだしてきて、博士をむかえました。

「あ、おかえりなさい。で、うまくいきましたか?」

 その男は、博士の部下のひとりでした。

「うん、子どもたちも、なかなかやるよ。ずいぶん、はげしく追っかけられた。予定のとおり隅田川を、例のランチで東京湾に出て、お台場からヘリコプターだ。子どもたちは、モーターボートでランチを追っかけたが、まさか、潜水服で海の底をわたり、お台場へあがろうとは気がつかないからね。ウフフフ……。

 それからあとは、あんぜんだったよ。これだけ、のりものをかえて、まわり道をすれば、いくら尾行の名人だって、つけられるものじゃないよ。」

 話しながら、ふたりは階段をあがって、二階の大きな書斎へ、はいっていきました。博士はドアをしめて、ポケットから黄金のトラを取りだし、

「ほら、これが、とりかえしてきた黄金のトラだ。これのかくし場所も、ちゃんと考えてある。」

 そのとき、庭のヘリコプターのなかに、ふしぎなことが、おこっていました。そうじゅう席の、うしろにおいてあったズックのつつみが、モゾモゾと、動きだしたのです。そして、なかから、こじきのようなきたない子どもが、あらわれました。その子どもは、ヘリコプターをおりると庭をよこぎって、西洋館のほうへ歩いていきます。

 西洋館の裏がわから、窓を見あげていますと、二階の大きな部屋に、パッと電灯がつきました。博士が、その部屋へ、はいったらしいのです。

 こじき少年は、あたりを見まわして、考えていましたが、ちょうど、その二階の窓の外に、大きな木が立っているのに気づくと、いきなり、その木のみきにとびついて、上のほうへ登っていきます。

 じつに、木のぼりのうまい子どもです。まるでサルのようです。そして、二階の窓の高さまで登ると、大きな枝をつたって、しげった葉をかきわけ、じっと、窓のなかをのぞきました。

 その部屋は、書斎らしく、四方の壁が、ぜんぶ本だなになっていて、何千さつという、りっぱな本がギッシリつまっています。そこで、魔法博士と、若い男が、なにか話しているのです。

 書斎のなかでは、博士が本だなから、一さつの厚い本をぬきとって、若い男に、話かけました。

「どうだ。うまい考えだろう。この本は日本大百科辞典のトの部だ。トラのことが書いてあるトの部だよ。この本のなかへ、黄金のトラを、かくしておくのさ。」

 それは、厚さ十センチもある、おそろしく大きな本でした。

 博士が、その本をひらきますと、なかのページが、ちょうど黄金のトラのかたちに、ナイフで、くりぬいてありました。

 博士は、テーブルにのせておいた、黄金のトラをとって、ページを、くりぬいた穴のなかへ、スッポリとはめこんだのです。そして本をとじると、外からは、すこしもわかりません。なんという、うまいかくし場所でしょう。

 博士はトラをかくした辞典を、もとの本だなへもどしました。そこには同じような表紙の辞典が、ズラッとならんでいて、どれがどれだか見わけがつきません。大百科辞典のトの部ということを知らなければ、とても、さがしだせるものではないのです。

 そのとき、庭のほうから、ただならぬ犬のなき声が聞こえてきました。

 こじき少年は、木の上から、二階の書斎のできごとを、すっかり見てしまいました。さて、おりようとして枝をつたっていますと、とつぜん、木の根元で、「ウウウ……。」という、うなり声がしました。見ると、一ぴきの大きな犬が、こちらを見あげているのです。少年は、すばやく、木のみきをつたいおりて、逃げだそうとしましたが、すると……待ちかまえていた猛犬(もうけん)は、おそろしい声でほえたてながら、少年にとびかかってきました。

 少年は右に左に身をかわして、逃げようとしましたが、とうとう、ズボンのおしりのところを、かみつかれてしまいました。猛犬は、そのまま、くいさがって、てこでもはなれないのです。それでも、少年は、犬をひきずって逃げました。

 しかし、ああ! だめです。人の足おとが聞こえてきました。犬の声をきいて、うちのなかから、人がとび出してきたのです。それも、ひとりではありません。二―三人の足おとです。

「エス! よくつかまえた。……やい、きさまは、いったい、なにものだっ?」

 バラバラッと、三人の人かげが、ゆくてに立ちふさがりました。みんな強そうな男です。

目次に戻る

目次