33話 メリー号の人たち
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事務長クーパーの船室には、三人の男ががんばっていた。それは当のクーパーと、かれの秘書のマルラと、それからもうひとりは、船内でただひとり眼が見える一等運転士パイクソンであった。
「どうも、SOSの手紙も、うまく本国へとどかなかったようだね」
といったのはクーパー事務長だった。かれの発案でもって、「クイーン・メリー号はこの附近にいるから、たすけてくれ」という文句を、パイクソンに命じて紙や布の小ぎれに書かせ、そとにすてさせ、それをひろう船を待つことにしたのであった。それはルゾン号上のスミス警部によってひろいあげられ、世界中に報告されたのであったが、このあやしき場所にとじこめられたメリー号の乗組員たちには、そんなことがわからなかった。いつまでたってもたすけにきてくれないところを見ると、そのSOSの手紙は、誰の手にもはいらなかったものだと思いこんでいたのだった。
「いや、まだ失望するのははやいよ。そのうちに、どこからか、たすけに来てくれるにちがいない。なにしろ、ぼくはたしかにあの手紙を五百つくって前後五回にわたって、船外に投げたんだから、そのうちのいくつかがとどかなければならんと思うんだが……」
「うん、でも、あれからもう五日もたったからなあ」
「悲観するのは、まだ早い」
「悲観はしていないが、なんとかしてたすかる次ぎの方法を考え出さねば船客に申しわけない」
船客たちはさぞ不自由をしていることであろう。三度三度の食事も、このごろは貯蔵してあるパンとかんづめとを配給するだけだった。
それも目の見えないボーイたちが、甲板や階段を手さぐりながら持って歩くのだから、配給するだけでも、なかなか困難なことだった。
「本船は、ある不慮の災害にあっているものと思われますが、幹部において、力をつくして脱出方を考えていますので、船客のみなさまにおかせられましては、このさい、落ちつきをもって、われわれの努力に信頼していただきたいのでございます」
というようなことを、くりかえし、ボーイたちにさけばせているのであった。
船員も船客も、さわぎたい気持をおさえて、かろうじて静かにしているという状態だった。なぜなれば、この汽船が今出あっている災難というのが、一通りや二通りの災難ではない、じつに前代未聞の稀有な出来ごとであることを感づいていたからであった。