34話 解毒剤
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事務長クーパーは、じぶんひとりの心の中で、重い心配をせおっていた。
まだ船内を十分に調べつくしてはいなかったけれど、どうやら本船の船長はどこへ行ったかゆくえが知れないようであった。船長についていた三千夫少年も、これまたどこにもすがたを見せない。もっとも三千夫については、クーパーは知らずとも、読者諸君はとくにごぞんじのはずである。しかし、三千夫がルゾン号に救われたことは、クーパーの知らないことだった。
「おお、事務長。なんだか眼が、すこし見えてきたようですよ」
と、秘書のマルラがとつぜん大きな声でさけんだ。
「なに、眼が見えだしたって」
クーパーは声のする方をふりかえった。すると、むこうに、うすぼんやりと人間の形が見えるではないか。それは久しぶりに見るマルラの姿であった。
「おお、マルラ。見える見える。そこに、つったっているのはおまえじゃないか」
「ああ、事務長。わたしも見えますよ。あなたはパイプをくわえておいでですね。ああ、ありがたい、眼が見えだすなんて」
これを聞いていたパイクソンは、
「おお、するとこれは、さっきモルフィス船医長の処方でこしらえた薬がききだしたんだな」
と、うれしそうにいった。
モルフィス医師は、船内でただひとりの眼のきく男パイクソンのたすけをかりて、これぞと思う解毒剤を作ったのであった。もちろん、かれが口でいう処方どおりに、パイクソンが、たなから薬びんをさがし、はかりにかけて作ったものであった。
その薬は、わずかに五十人分しか出来なかった。あとは薬がたりないのであった。
クーパーの命令で、その五十人分の薬を、船を動かすに必要な船員にだけのませたのであった。お客さまの方は、あとまわしにするよりしかたがなかった。
その薬が、いよいよききだしたのである。クーパーたちの喜びは非常なものであった。目さえいくらか見えるなら、この災難からなんとかして、逃げだす手段が見つかるだろうと思ったからであった。
そのとき、電話のベルがチリチリチリンと鳴りだした。
クーパーが出てみると、電気主任のエレソンの声だった。
「おお、クーパーさん。眼がうっすら見えだしましたよ。だから、すぐ電気を起こします。まず船内の電灯からつけましょう」
電気主任の声も、喜びにみちみちていた。