6話 ルゾン号に移乗
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ただちにルゾン号との間に、無線電信がいそがしげに交換された。
そのけっか、あと三時間ほどすれば、ルゾン号と洋上で出会うことに手はずがととのった。
スミス警部の乗った駆逐艦は、それに応ずるように、きゅうに進路をまげて隊列をはなれた。
そして暗い海上を全速力で飛ばしていった。エンジンの音は一段と高くなり、震動はいよいよ加わっていった。
それから、かなりながい時間がたった。
水兵のどなるような声が聞こえた。汽笛がポーポーと鳴った。甲板に出てみると、まっくらな海上に、左舷の方にあたって赤と青との灯がみえた。その灯はだんだんとこっちに近づいてくるのがわかった。
「フランス汽船ルゾン号だ」
信号兵がつぶやいた。
艦長はスミス警部を部屋に呼んだ。そして、クイーン・メリー号の捜査情報のなかから最も新しいものをえらんで教えてやった。それは主として捜査艦艇の配置と、その報告の羅列だった。
「――しかし、けっきょくのところ、メリー号の行方は今夕とおなじようにサッパリわからないのだ」
そういって艦長は、沈痛な顔をして言葉をむすんだ。
スミス警部も、それを大きなためいきとともに聞いた。艦長の立つうしろのかべには、大きな大西洋の海図がかかっていた。まったく大西洋ははてしもないほど広いのであった。
甲板から当直将校の声が伝声管をつたわって聞こえてきた。いよいよルゾン号に追いついたというしらせであった。
甲板に出てみると、いつしか東の空がポーッと白みかかっていた。汽艇は波の間に浮いて、スミス警部を待っていた。
「やあ、しっかりやって来たまえ」
そういう声に送られて、警部は暁の洋上に船をのりかえることになった。彼はもう海軍の軍人のように、挙手の礼をもって祖国の駆逐艦に別れをつげた。
スミス警部は、やがてフランス汽船ルゾン号上の人となった。
ルゾン号は五千トンばかりの貨物汽船であった。しかし、戦時にはいつでも航空母艦になれるように出来ていたから、スピードも三十ノットの上出るというすこぶる快速船だった。銑鉄とワタとをうんとつんでいた。もちろんマストの上には、三色旗がへんぽんとひるがえっていた。
エバン船長は欧洲大戦生き残りの勇士で、いまなおおかすべからざる気概をもっていたが、一面好々爺でもあった。スミス警部をむかえると、かたい握手をもとめて、クイーン・メリー号の遭難について見舞いをのべたのち、
「――本社の指令にもとづき、スコットランド・ヤード(ロンドンの警視庁)の名警部スミス氏を歓迎し、メリー号の捜査について、いかようなる便宜をもはからうの光栄を有するものです」
スミス警部は、ふかくその好意を謝したうえで、ただちに現場附近におもむいて捜査をしてくれるようにとたのんだ。とりわけ、海上のメリー号に、関係のある漂流物について、細心の注意をはらって見つけてくれるようにと依頼した。
「やあ、海上捜査ならばわたしのお手のものですわい。まあ安心して見ていていただきたい」
エバン船長はにっこり笑って、またスミス警部の手を強くふった。
スミス警部には、フランス汽船の強い自信が、なんとはなく重苦しいほどせまってくるのを感じないではいられなかった。