7話 漂流物
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「船長、漂流物が見えます。左舷――」
と、一等運転士がかけこんできた。
ちょうどスミス警部が、船長室で、船長と共に朝飯のテーブルについているときのことだった。
船長はニヤリと笑って、警部の方を見た。どうです、さっき申したとおりでしょうがネ、といいたげな目つきである。
(すこし早すぎるようだが――)
と、スミス警部はすこし胸をつかれた形であった。
甲板へ出てみると、水夫たちがモーター・ボートをおろしていた。ボートはスルスルとあざやかに舷側をすべりおりて、海面に浮かんだ。と思うと、はや、白波をけたてて進んでいった。
「どこに見えるんですかネ」
スミス警部は双眼鏡をつかんでたずねた。
「この見当です」
と一等運転士は長い指をのばして、海上を指した。
「すぐそこです。いますぐボートがひろいあげますから。そうとうのえものですよ」
「そうとうのえもの?」
スミス警部は、いそいで双眼鏡を目にあてた。かれは不器用な手つきで、ピントを合わせていたが、やがてとび上がるようにさけんだ。
「ああ、あれだな。人間のようだ」
「そうです。人間にちがいありません。しかも少年です。最新式の浮標にはいっている。クイーン・メリー号の名までハッキリついているやつです」
「ええッ、クイーン・メリー号ですって?」
海上では、モーター・ボートがすでにおいついて、少年を波間からひろいあげていた。やがてボートは、またルゾン号の舷側にかえって来た。つりばしごをトコトコとのぼってくる、しお焼けをした船員や水夫たち。
「――おどろいちゃいけない。日本の少年ですよ。船のボーイらしい服装をしています」
すくいにいった二等運転士が報告するその言葉の下に、ふたりの水夫にかかえられた全身ズブぬれの少年が、甲板の上におろされた。少年は気を失っているらしい。すくわれたので急に気がゆるんだのであろう。この少年こそたれあろう、サケ料理を食いはぐれた、クイーン・メリー号のチンピラボーイ三千夫少年にほかならなかった。
警部はじめ一同は、少年のそばによって、かいほうをくわえた。この少年こそは、クイーン・メリー号の唯一の遺品でもあり、ただひとりの手がらびとであるかも知れないのだ。汽船の上にすくいあげた以上は、なんとしてもかれの意識をよみがえらせねばならない。そして、少年がどうしてメリー号から脱出して海上にただようようになったか、そのわけを聞かせてもらわねばならないのだ。
このとき三千夫少年は、やっと気がついたらしく、まゆにしわをよせ、うでをグッとまげた。