4話 第四景
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(前景と同じ庵室。夜の明け方前。前景の盗人であった無名の青年縁近く膳の前に座り箸を握って居る。蓮月は法服姿に戻り庵室の奥の炉で香湯をあたためて居る。)
無名の青年 ――あーあ、飯など喉へ通らない。
(前歯が無くなりずっと人相がふけた蓮月、口もいくらかきき憎そうであるが、言葉は優しく凜々しい。)
蓮月 ――それはいけません。夜が開けたらあなたは橋普請の働きに外へ出る約束でしたね。働く人がお腹を空にして居ては役に立ちません。少しなとおあがりなさい。おおそうそう、宵に母屋の律師さまから頂いた大根の葉の煮ものがここにある。これを菜にして兎も角箸に口をつけてご覧なさい。
(蓮月、経机の上の鉢から覆い紙を除け青年の膳へ持って行ってやる。)
無名の青年 ――有難う。ではまあ一生懸命喰べて見ましょう。
(青年、覚束なく喰べ出す。蓮月、香湯の鍋の胴に手を触れて見る。)
蓮月 ――丁度頃合いのあたたか味になった。毎夜子の刻迄には屹度して差上げる筈の日課が、ゆうべからの騒ぎで暁方になって仕舞った。仏様もお待ち兼ねであろう。どれお湯浴みして差上げましょう。
(蓮月、塗盥を庵室の中央に持ち出し、中に黄金の仏像を安置する。)
蓮月 ――「我今灌沐諸如来。浄智荘厳功徳聚。五濁衆生令離垢。同証如来浄法身。」
(蓮月、偈を繰り返し乍ら香湯を盥の仏にそそぐ。蓮月の偈が唱声三昧に入るに従い、青年、箸と椀をさし置きしきりに涙を拭き出す。遂にかすかな欷歔の声を立て両手をひしと組み合せ、蓮月の後姿を拝む。欷歔の声漸次大きくなる。蓮月の掬う香湯の匂いあたりに薫じ、夜は明け放れる。)
――幕――