一休さん

11話 びょうぶの とら

2,163字 約4分 2021年6月25日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

 そのころは、ぶっきょうの なかでも ぜんしゅうが とても さかんでした。

 ぜんしゅうを しんこうする ひとたちは、もんどうが (だい)すきでした。

 それで、一休(いっきゅう)さんの とんちは たちまち (だい)ひょうばんに なって、

「あんこくじの しゅうけん という ()ぼうずは (たい)へんに とんちが すぐれて いるそうだ。」

 と、いう うわさが、ぱっと (きょう)の まちじゅうに ひろがりました。

 そして、そのことが いつか しょうぐんけにも きこえました。

 ときの しょうぐんは あしかが 三だいしょうぐんの よしみつ(こう)です。一休(いっきゅう)さんの はなしを きいた よしみつ(こう)は、

「ほほう、それは おもしろい。では (ひと)つ その しゅうけんと いう ()ぞうを よんで、ごちそう して やろうでは ないか。」

 と、いって、つぎの() さっそく あんこくじに つかいを よこして、

「あす ()ぞうの しゅうけんを つれて きんかくじに きなさい。」

 と、いいました。

 よしみつ(こう)は そのころ あたまを そって ぶつもんにはいり、天山(てんざん)と いいましたが、きんかくじを たて、そこに すんで いたのでした。

 むかしは ぶしが としを とると、おてらを たてて ぼうずに なり、いんきょ することが はやったものです。

 しょうぐんさまから まねかれる ことは (たい)へんな めいよですから、おしょうさまは さっそく しゅうけんを つれて きんかくじに いきました。

 ふたりは すぐ りっぱな (おお)ひろまに とおされました。

 (じょう)だんの まんなかに よしみつ(こう)が すわっています。その みぎと ひだりには、えらい さむらいたちが ずらりと ならんでいます。おしょうさまは しずかに ()をついて、

「おめしにより、しゅうけんを つれ さんじょう いたしました。」と、いいました。

「おお ごくろうじゃった。」

 よしみつ(こう)は おしょうさまの うしろで あたまを さげている 一休(いっきゅう)さんを じろりと ながめ、

「くるしゅうない。あたまを あげい。」

「はい。」

 一休(いっきゅう)さんは あたまを あげて、あからがおの ずんぐり ふとった よしみつ(こう)を じっと みあげました。

 すると よしみつ(こう)は とつぜん 一休(いっきゅう)さんに いいました。

「しゅうけん、おまえは なかなか とんちの よい ()ぞうじゃと きくが、どうじゃ、おまえの よこに ある その びょうぶに かいて ある トラは、まるで いきて いるようじゃろう。」

「はい。おおせの とおりで ございます。」

「ところが、そのトラが まいばん そのびょうぶから ぬけだして、いたずらを するので ほとほと こまるのじゃ。ついては そのほう ただちに そのトラを しばって わしの もとに つれてまいれ。」

 よしみつ(こう)は なんもんを だしました。

 おしょうさま はじめ そこに いる(ひと)は、みんな あっけに とられて、一休(いっきゅう)さんが この なんもんに どう こたえるか じっと みつめていました。

 ところが 一休(いっきゅう)さんは へいきのへいざで、にこにこ わらいながら、

「はい、しょうち いたしました。」と、さらりと こたえました。

 これには こんどは なんもんを だした よしみつ(こう)のほうが、あっけに とられました。

「ただちに めしとるのじゃぞ。」

「はい、わけが ありません。」

 一休(いっきゅう)さんは よしみつ(こう)に かるく あたまを さげると、びょうぶの まえに たって いき、ころもの したから ()ぬぐいを だして きりきりと はちまきをし、いかにも トラを つかまえそうな かっこうをして、

「しょうぐんさま、おなわを おかしください。」

「おお、たれか しうゅけんに なわを かしてやれ。」

 けらいは すぐ なわを もって きて、一休(いっきゅう)さんに わたしました。

 どうするのだろう? 一休(いっきゅう)さんは ほんきで えに かいた トラを なわで しばる つもりでしょうか。

 いならぶ (ひと)たちも ()に あせを にぎり、じっと 一休(いっきゅう)さんの ようすを ながめています。

 が、一休(いっきゅう)さんは へいきで じっと びょうぶの なかのトラを にらんで いましたが、ふと よしみつ(こう)の ほうを むいて、

「よういは できました。すぐ しばりますから、どうぞ たれかに この トラを びょうぶの なかから おいださしてください。」

 と、いいました。

「う、う、うむ……なんと、その トラを おいだせと もうすか。」

 よしみつ(こう)は おもわず うなりました。

「はい、おいだして くだされば しゅうけん ただちに しばります。はやく ごけらいに いいつけて おいだしてください。」

「う、う、うむ。」

 よしみつ(こう)は (おお)きな ()だまを ぎろりと むきだして いつまでも うなっています。

 これは はっきりと よしみつ(こう)の まけです。そう おもった よしみつ(こう)は、すぐ、

「いや、あっぱれじゃ。いかにも そちの とんち みあげた ものじゃ。」

 と、ひざを たたいて 一休(いっきゅう)さんの とんちに かんしんし、

「それ、ものども しゅうけんに ごちそうを だしてやれ。」と、けらいに いいつけました。

 おしょうさまと 一休(いっきゅう)さんの まえには (やま)もりどっさりの ごちそうが たくさん はこばれてきました。一休(いっきゅう)さんは にこにこ (おお)よろこびで ごちそうに ぱくつきました。

目次に戻る

目次