26話 てんぐの どうじょう
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たびに でた 一休さんは、いつか えちぜんのくにの たけう と いう町を あるいて いました。
えちぜんの くには、いまの ふくいけん です。
このまちに ありた はやと という けんじゅつの せんせいが いて、大きな どうじょうを かまえて いました。
一休さんは、まちの ひとから、この けんじゅつの せんせいは、うでは りっぱだが、こころが わるく、いつも うでを はなに かけては、まちの ひとに めいわくを かけ、まちの ひとから はなつまみに されて いると いうことを ききました。
一休さんは ひょっこりと その どうじょうの まえを とおりかかりました。
「ああ、ここが うわさにきく てんぐの どうじょうか。」
一休さんが そう つぶやいたとき、どうじょうの まどから くびを だした ひとりの もんじんが、ふしぎそうに 一休さんの すがたを ながめました。
たびに でた 一休さんは いつも 木刀を こしに さし、尺八を ふいて いたと いうことです。もんじんは 木刀を こしに さした こじきぼうずを、ふしぎに おもったのです。
その もんじんが一休さんの ひとりごとを、ききつけて、
「おい、ぼうず、てんぐの どうじょうとは なんだ。」
と、さけんだので、ほかの もんじんも たくさん まどぎわに あつまってきて、
「なんだ、なんだ。」
と、さわぎだしました。
「あの ぼうずが へんな ことを いいやがったんだよ。」
「けしからん ぼうずだな。」
一休さんは たちどまって、にこにこ もんじんたちを ながめて いましたが、なにを おもったか、ずかずかと どうじょうの げんかんに はいって いって、
「たのもう。」
と、こえを かけました。すると 目つきの わるい もんじんが でてきて、
「これは たびの ぼうさん、どちらから おいでか?」
「うん、あちらから きた。」
「いや、うまれた ところは どこかと きいているのだ。」
「ははは、ききかたが まちがって いる。ぼうずには うまれた 土地が ないものじゃ。むりに いえば てんじくからか。」
もんじんは むっとしました。
「ここは きよき どうじょうじゃ。こじきぼうずなどの くる ところではない。なにか ほしければ だいどころに まわれ。」
「なるほど。」
一休さんは くるりと むきを かえて、どうじょうの かってぐちに まわりました。そして 大ごえで いいました。
「この どうじょうは、よこぐるまを おしては まちの ひとを くるしめ、大もうけを して いるそうじゃから、かねもちだろう。わしは はらが へった。ごちそうを たのむ。」
ほかの もんじんが でてきましたが、一休さん ずうずうしく どなって いるので、かんかんに おこって、
「せっかくだが、ここは ぶげいの どうじょうだ。こじきぼうずに めぐむ ものなど ない。はらが へったら めしやに いけ。」
「なにか ほしかったら、かってぐちに まわれと いったぞ。」
この さわぎを ききつけて おくにいた せんせいが、
「なんじゃ、そうぞうしい。」
「せんせい、こじきぼうずが めしを くわせろ、と いっています。せんせいの ことを てんぐと いっています。」
「だいどころに とおして、めしを くわしてやれ。」
もんじんは せんせいが そう いうので、
「ぼうさん、こちらに きて ください。」
「それは かたじけない。」
一休さんは わらじを ぬいで、どんどん どうじょうにはいり、かみざに ある せんせいの ざぶとんに、どっかと あぐらをかいて、
「ちょっと ことわって おくが、わしは まずいものは きらいじゃ。たんと おいしいものを もって まいれ。」
「ぼうさん、そこは ちがいます。だいどころに きて ください。」
「いや、ここの ほうが よい。」
もんじんは また せんせいの へやに きて、
「せんせい、こじきぼうずが せんせいの ざぶとんに すわって、いばって います。」
「そうか。」
なにか わけが ありそうだと おもったらしく、せんせいが どうじょうに でてきて、
「これこれ、どうじょうには どうじょうの れいぎがある。かってなことを しては いかん。」
「もんくを いう まえに ごちそうを たのむ。」
どうじょうの せんせいも おこって しまいました。
「あまり かってな ことを すると、すてては おかんぞ。」
「どう なさろうと いうのじゃ。」
せんせいは ふと 一休さんの さしている 木刀を みて、
「おや、ぼうさんは けんじゅつを なさるか?」
「いや、いたさぬ。」
「では、その木刀は なんの ために おもちじゃ。」
「よのなかの にせものに みせる ためじゃ。」
「にせもの?」
「そう。よのなかには この 木刀の ような にせものが たくさんいる。こうして こしに さして いると、かたなのように みえるが、木刀は かたなの にせものじゃ。」
「わしを にせものだと いうのか?」
「おまえも そう おもうだろう。」
「くそぼうずッ!」
と、せんせいは まっかに なって おこりました。いきなり そこに あった 木刀を とりあげると、やっと ばかりに ふりあげ、
「ぼうず、もいちど いってみろ。ただでは おかぬぞ。」
が、一休さんは へいぜんと しています。
「にせもの、どこからでも うって こい。」
もんじんたちは、ああ、かわいそうに、この こじきぼうず あたまを たたきわられるだろう、と じっと みつめています。
が、ふしぎな ことに じっと 一休さんを にらんで、木刀を ふりあげて いる せんせいの てが、ぶるぶると ふるえだし、ひたいから、じわじわ あぶらあせが ながれだして きました。
「なぜ うたぬ。」
一休さんは はらの そこから いいました。すると、さすがは うでの ある ぶげいしゃです。じぶんの わるいことを さとったか、がらりと 木刀を すてて、
「うたれるのは わたしで ございます。」と いうと、ぴたりと 一休さんの まえに りょうてを つきました。
「ぼうさま、あなたは かねがね れんにょ上人から うけたまわって おります 一休さまでは ござりませぬか?」
「ほう、そなたは れんにょの しんじゃか?」
「はい、この あたりの ものは、みな れんにょ上人の しんじゃに ござります。」
れんにょ上人は そのころ 名の きこえた えらい ぼうさんでした。この たけうの まちから 十りばかり はなれた、しばたこの ほとりの よしざき と いう まちに 大きな おてらを たて、この あたりの ひとたちから、いきぼとけと いわれて いました。
れんにょは 一休さんより 二十二さいも わかいのですが、一休さんとは なかよしでした。
「そうか、れんにょの しんじゃなのに、きさまが はなつまみもの とは、わけが わからぬ。」
「もうしわけ ありません。」
「うでを みがくだけでは だめじゃ。こころを みがけ。」
「はい、目が さめました。」
ありた はやとは もんじんたちに いいつけて 一休さんに たくさん ごちそうを だし、
「一休さま、おねがいが ござります。」
「なんじゃな。」
「この どうじょうの どの 木刀でも よろしゅうございますから、一休さまの 木刀と とりかえて いただきとう ございます。」
「こんな ものを なんに いたす。」
「ぶつぜんに かざって、まいにち おがみ、こころを みがきます。」
「そうか。それは よい こころがけじゃ。」
一休さんは、ごちそうを たべ、木刀を ありた はやとにあたえると、また どこともなく でていきました。