一休さん

26話 てんぐの どうじょう

3,150字 約6分 2021年6月25日 公開

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 たびに でた 一休(いっきゅう)さんは、いつか えちぜんのくにの たけう と いう(まち)を あるいて いました。

 えちぜんの くには、いまの ふくいけん です。

 このまちに ありた はやと という けんじゅつの せんせいが いて、(おお)きな どうじょうを かまえて いました。

 一休(いっきゅう)さんは、まちの ひとから、この けんじゅつの せんせいは、うでは りっぱだが、こころが わるく、いつも うでを はなに かけては、まちの ひとに めいわくを かけ、まちの ひとから はなつまみに されて いると いうことを ききました。

 一休(いっきゅう)さんは ひょっこりと その どうじょうの まえを とおりかかりました。

「ああ、ここが うわさにきく てんぐの どうじょうか。」

 一休(いっきゅう)さんが そう つぶやいたとき、どうじょうの まどから くびを だした ひとりの もんじんが、ふしぎそうに 一休(いっきゅう)さんの すがたを ながめました。

 たびに でた 一休(いっきゅう)さんは いつも 木刀(ぼくとう)を こしに さし、尺八(しゃくはち)を ふいて いたと いうことです。もんじんは 木刀(ぼくとう)を こしに さした こじきぼうずを、ふしぎに おもったのです。

 その もんじんが一休(いっきゅう)さんの ひとりごとを、ききつけて、

「おい、ぼうず、てんぐの どうじょうとは なんだ。」

 と、さけんだので、ほかの もんじんも たくさん まどぎわに あつまってきて、

「なんだ、なんだ。」

 と、さわぎだしました。

「あの ぼうずが へんな ことを いいやがったんだよ。」

「けしからん ぼうずだな。」

 一休(いっきゅう)さんは たちどまって、にこにこ もんじんたちを ながめて いましたが、なにを おもったか、ずかずかと どうじょうの げんかんに はいって いって、

「たのもう。」

 と、こえを かけました。すると ()つきの わるい もんじんが でてきて、

「これは たびの ぼうさん、どちらから おいでか?」

「うん、あちらから きた。」

「いや、うまれた ところは どこかと きいているのだ。」

「ははは、ききかたが まちがって いる。ぼうずには うまれた 土地(とち)が ないものじゃ。むりに いえば てんじくからか。」

 もんじんは むっとしました。

「ここは きよき どうじょうじゃ。こじきぼうずなどの くる ところではない。なにか ほしければ だいどころに まわれ。」

「なるほど。」

 一休(いっきゅう)さんは くるりと むきを かえて、どうじょうの かってぐちに まわりました。そして (おお)ごえで いいました。

「この どうじょうは、よこぐるまを おしては まちの ひとを くるしめ、(おお)もうけを して いるそうじゃから、かねもちだろう。わしは はらが へった。ごちそうを たのむ。」

 ほかの もんじんが でてきましたが、一休(いっきゅう)さん ずうずうしく どなって いるので、かんかんに おこって、

「せっかくだが、ここは ぶげいの どうじょうだ。こじきぼうずに めぐむ ものなど ない。はらが へったら めしやに いけ。」

「なにか ほしかったら、かってぐちに まわれと いったぞ。」

 この さわぎを ききつけて おくにいた せんせいが、

「なんじゃ、そうぞうしい。」

「せんせい、こじきぼうずが めしを くわせろ、と いっています。せんせいの ことを てんぐと いっています。」

「だいどころに とおして、めしを くわしてやれ。」

 もんじんは せんせいが そう いうので、

「ぼうさん、こちらに きて ください。」

「それは かたじけない。」

 一休(いっきゅう)さんは わらじを ぬいで、どんどん どうじょうにはいり、かみざに ある せんせいの ざぶとんに、どっかと あぐらをかいて、

「ちょっと ことわって おくが、わしは まずいものは きらいじゃ。たんと おいしいものを もって まいれ。」

「ぼうさん、そこは ちがいます。だいどころに きて ください。」

「いや、ここの ほうが よい。」

 もんじんは また せんせいの へやに きて、

「せんせい、こじきぼうずが せんせいの ざぶとんに すわって、いばって います。」

「そうか。」

 なにか わけが ありそうだと おもったらしく、せんせいが どうじょうに でてきて、

「これこれ、どうじょうには どうじょうの れいぎがある。かってなことを しては いかん。」

「もんくを いう まえに ごちそうを たのむ。」

 どうじょうの せんせいも おこって しまいました。

「あまり かってな ことを すると、すてては おかんぞ。」

「どう なさろうと いうのじゃ。」

 せんせいは ふと 一休(いっきゅう)さんの さしている 木刀(ぼくとう)を みて、

「おや、ぼうさんは けんじゅつを なさるか?」

「いや、いたさぬ。」

「では、その木刀(ぼくとう)は なんの ために おもちじゃ。」

「よのなかの にせものに みせる ためじゃ。」

「にせもの?」

「そう。よのなかには この 木刀(ぼくとう)の ような にせものが たくさんいる。こうして こしに さして いると、かたなのように みえるが、木刀(ぼくとう)は かたなの にせものじゃ。」

「わしを にせものだと いうのか?」

「おまえも そう おもうだろう。」

「くそぼうずッ!」

 と、せんせいは まっかに なって おこりました。いきなり そこに あった 木刀(ぼくとう)を とりあげると、やっと ばかりに ふりあげ、

「ぼうず、もいちど いってみろ。ただでは おかぬぞ。」

 が、一休(いっきゅう)さんは へいぜんと しています。

「にせもの、どこからでも うって こい。」

 もんじんたちは、ああ、かわいそうに、この こじきぼうず あたまを たたきわられるだろう、と じっと みつめています。

 が、ふしぎな ことに じっと 一休(いっきゅう)さんを にらんで、木刀(ぼくとう)を ふりあげて いる せんせいの てが、ぶるぶると ふるえだし、ひたいから、じわじわ あぶらあせが ながれだして きました。

「なぜ うたぬ。」

 一休(いっきゅう)さんは はらの そこから いいました。すると、さすがは うでの ある ぶげいしゃです。じぶんの わるいことを さとったか、がらりと 木刀(ぼくとう)を すてて、

「うたれるのは わたしで ございます。」と いうと、ぴたりと 一休(いっきゅう)さんの まえに りょうてを つきました。

「ぼうさま、あなたは かねがね れんにょ上人(しょうにん)から うけたまわって おります 一休(いっきゅう)さまでは ござりませぬか?」

「ほう、そなたは れんにょの しんじゃか?」

「はい、この あたりの ものは、みな れんにょ上人(しょうにん)の しんじゃに ござります。」

 れんにょ上人(しょうにん)は そのころ ()の きこえた えらい ぼうさんでした。この たけうの まちから 十りばかり はなれた、しばたこの ほとりの よしざき と いう まちに (おお)きな おてらを たて、この あたりの ひとたちから、いきぼとけと いわれて いました。

 れんにょは 一休(いっきゅう)さんより 二十二さいも わかいのですが、一休(いっきゅう)さんとは なかよしでした。

「そうか、れんにょの しんじゃなのに、きさまが はなつまみもの とは、わけが わからぬ。」

「もうしわけ ありません。」

「うでを みがくだけでは だめじゃ。こころを みがけ。」

「はい、()が さめました。」

 ありた はやとは もんじんたちに いいつけて 一休(いっきゅう)さんに たくさん ごちそうを だし、

一休(いっきゅう)さま、おねがいが ござります。」

「なんじゃな。」

「この どうじょうの どの 木刀(ぼくとう)でも よろしゅうございますから、一休(いっきゅう)さまの 木刀(ぼくとう)と とりかえて いただきとう ございます。」

「こんな ものを なんに いたす。」

「ぶつぜんに かざって、まいにち おがみ、こころを みがきます。」

「そうか。それは よい こころがけじゃ。」

 一休(いっきゅう)さんは、ごちそうを たべ、木刀(ぼくとう)を ありた はやとにあたえると、また どこともなく でていきました。

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