藪の中

3話 檢非違使に問はれたる放免の物語

567字 約1分 2012年3月25日 公開

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 わたしが(から)()つた(をとこ)でございますか? これは(たし)かに多襄丸(たじやうまる)()ふ、名高(なだか)盜人(ぬすびと)でございます。(もつと)もわたしが(から)()つた(とき)には、(うま)から()ちたのでございませう、粟田口(あはだぐち)石橋(いしばし)(うへ)に、うんうん(うな)つて()りました。時刻(じこく)でございますか? 時刻(じこく)昨夜(さくや)初更(しよかう)(ごろ)でございます。何時(いつ)ぞやわたしが(とら)(そん)じた(とき)にも、やはりこの(こん)水干(すいかん)に、打出(うちだ)しの太刀(たち)()いて()りました。唯今(ただいま)はその(ほか)にも御覽(ごらん)(とほ)り、弓矢(ゆみや)(るゐ)さへ(たずさ)へて()ります。さやうでございますか? あの死骸(しがい)(をとこ)()つてゐたのも、――では人殺(ひとごろ)しを(はたら)いたのは、この多襄丸(たじやうまる)(ちが)ひございません。(かは)()いた(ゆみ)黒塗(くろぬ)りの(えびら)(たか)()征矢(そや)が十七(ほん)、――これは(みな)、あの(をとこ)()つてゐたものでございませう。はい、(うま)仰有(おつしや)(とほ)り、法師髮(ほふしがみ)月毛(つきげ)でございます。その畜生(ちくしやう)(おと)されるとは、(なに)かの因縁(いんえん)(ちが)ひございません。それは石橋(いしばし)(すこ)(さき)に、(なが)端綱(はづな)()いた(まま)(みち)ばたの青芒(あをすすき)()つて()りました。

 この多襄丸(たじやうまる)()ふやつは、洛中(らくちう)徘徊(はいくわい)する盜人(ぬすびと)(なか)でも、女好(をんなず)きのやつでございます。昨年(さくねん)(あき)鳥部寺(とりべでら)賓頭盧(びんづる)(うしろ)(やま)に、物詣(ものまう)でに()たらしい女房(にようぼう)一人(ひとり)()(わらは)と一しよに(ころ)されてゐたのは、こいつの仕業(しわざ)だとか(まを)して()りました。その月毛(つきげ)()つてゐた(をんな)も、こいつがあの(をとこ)(ころ)したとなれば、何處(どこ)へどうしたかわかりません。差出(さしで)がましうございますが、それも御詮議(ごせんぎ)(くだ)さいまし。

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