3話 檢非違使に問はれたる放免の物語
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わたしが搦め取つた男でございますか? これは確かに多襄丸と云ふ、名高い盜人でございます。尤もわたしが搦め取つた時には、馬から落ちたのでございませう、粟田口の石橋の上に、うんうん呻つて居りました。時刻でございますか? 時刻は昨夜の初更頃でございます。何時ぞやわたしが捉へ損じた時にも、やはりこの紺の水干に、打出しの太刀を佩いて居りました。唯今はその外にも御覽の通り、弓矢の類さへ携へて居ります。さやうでございますか? あの死骸の男が持つてゐたのも、――では人殺しを働いたのは、この多襄丸に違ひございません。革を卷いた弓、黒塗りの箙、鷹の羽の征矢が十七本、――これは皆、あの男が持つてゐたものでございませう。はい、馬も仰有る通り、法師髮の月毛でございます。その畜生に落されるとは、何かの因縁に違ひございません。それは石橋の少し先に、長い端綱を引いた儘、路ばたの青芒を食つて居りました。
この多襄丸と云ふやつは、洛中に徘徊する盜人の中でも、女好きのやつでございます。昨年の秋鳥部寺の賓頭盧の後の山に、物詣でに來たらしい女房が一人、女の童と一しよに殺されてゐたのは、こいつの仕業だとか申して居りました。その月毛に乘つてゐた女も、こいつがあの男を殺したとなれば、何處へどうしたかわかりません。差出がましうございますが、それも御詮議下さいまし。