絵のない絵本 01 絵のない絵本

7話 第六夜

798字 約2分 2018年4月2日 公開

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「わたしはウプサラにいました」と、月が言いました。「わたしは作物の育たない畑と、わずかしか草の()えていない大きな平野を見おろしました。わたしはフュリス河に自分の姿を映しました。ちょうどそのとき、蒸気船にびっくりした魚が、(あし)のあいだに()げこみました。わたしの下の方を雲が走っていましたが、長い(かげ)をオーディンの墓、トールの墓、フレイヤの墓と人々が呼んでいる小高い(おか)の上に投げていきました。これらの丘の上をおおっている(うす)芝生(しばふ)の中には、人々の名前が切りこまれていました。ここには旅行者たちが自分の名前を(きざ)みつけることのできるような記念石もなければ、どこかに自分の姿をえがかせることのできるような岩壁(がんぺき)もありません。ですから、ここを(おとず)れる人々は芝生を()りとらせました。はだの見える地面が、大きな文字や名前となって現われています。そしてそういう文字や名前が、大きな丘の上に張られた一つの(あみ)のようになっているのです。いわば一種の不滅(ふめつ)です。もっとも、それをまた新しい芝生がおおっていくのですが。

 そこに、ひとりの男が立っていました。歌い手でした。男はひろい銀の輪のついた蜜酒(みつしゅ)のさかずきを飲みほして、一つの名前をつぶやきました。そして風に向って、その名前をだれにももらさないようにと(たの)みました。ところが、わたしは聞いてしまったのです。わたしはその名前を知っていました。その名前の上には、伯爵(はくしゃく)(かんむり)がきらめいています。だからこの男は、その名前を大声で言わなかったのです。わたしはほほえみました。この男の上には、詩人の冠がきらめいているではありませんか! エレオノーラ・デステの高貴さはタッソーの名前と結びついています。それからまたわたしは知っています、どこに美のバラが()くかということを――!」

 月がこう言ったとき、一片(いっぺん)の雲が通りすぎました。――詩人とバラのあいだには、どんな雲も割りこまないでいてもらいたいものです。

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