7話 第六夜
読み方を変える
「わたしはウプサラにいました」と、月が言いました。「わたしは作物の育たない畑と、わずかしか草の生えていない大きな平野を見おろしました。わたしはフュリス河に自分の姿を映しました。ちょうどそのとき、蒸気船にびっくりした魚が、葦のあいだに逃げこみました。わたしの下の方を雲が走っていましたが、長い影をオーディンの墓、トールの墓、フレイヤの墓と人々が呼んでいる小高い丘の上に投げていきました。これらの丘の上をおおっている薄い芝生の中には、人々の名前が切りこまれていました。ここには旅行者たちが自分の名前を刻みつけることのできるような記念石もなければ、どこかに自分の姿をえがかせることのできるような岩壁もありません。ですから、ここを訪れる人々は芝生を刈りとらせました。はだの見える地面が、大きな文字や名前となって現われています。そしてそういう文字や名前が、大きな丘の上に張られた一つの網のようになっているのです。いわば一種の不滅です。もっとも、それをまた新しい芝生がおおっていくのですが。
そこに、ひとりの男が立っていました。歌い手でした。男はひろい銀の輪のついた蜜酒のさかずきを飲みほして、一つの名前をつぶやきました。そして風に向って、その名前をだれにももらさないようにと頼みました。ところが、わたしは聞いてしまったのです。わたしはその名前を知っていました。その名前の上には、伯爵の冠がきらめいています。だからこの男は、その名前を大声で言わなかったのです。わたしはほほえみました。この男の上には、詩人の冠がきらめいているではありませんか! エレオノーラ・デステの高貴さはタッソーの名前と結びついています。それからまたわたしは知っています、どこに美のバラが咲くかということを――!」
月がこう言ったとき、一片の雲が通りすぎました。――詩人とバラのあいだには、どんな雲も割りこまないでいてもらいたいものです。