8話 地球要塞(8)
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“ピース提督、改めて聞こう。欧弗同盟軍に対し砲門を開くかどうか”
X大使の、膝づめの談判だった。
「うむ。黒馬博士が、もうこれ以上、わが艦隊に害を加えないと約束されるなら、余は、欧弗同盟軍を攻撃するであろう」
“約束とは、何だ。約束とは、対等の位置の者に対していうべきだ。今、われは勝利者だ。貴官は、降服者だ。それを忘れてどうするのか”
「うむ――」
“貴官が「わが艦隊をこれ以上傷つけないように」と希望するならば、それも遂げられるであろう。但し、それがためには、貴官は、今言明したことを、早速実行のうえに示さなくてはならぬ”
「ええっ――」
“今、欧弗同盟の空軍の一部は、アフリカ東岸の基地を出発して、極東へ向っているが、あと十数分のうちに、貴艦隊の左舷前方から現われるであろう。よって貴艦隊は、これに対し、直ちに高角砲をもって砲撃せよ。よろしいか。そうすることを約束するなら、私は一時、退席しよう”
「やむを得ん。たしかに、余はその約束をまもるであろう」
“約束をまもらないときは、貴艦隊はどんなことになるか犠牲戦艦オレンジ号の例によって、よく考えておくがいい”
「ああ、黒馬博士。オレンジ号を、かえしてもらいたい」
“いや、それは聴かれない。全艦隊が没収されなかったことを、せめてもの拾いものだと思うがよろしい”
X大使は、そこで、私の耳に囁いていうには、
“さあ、もうこのへんで、君は引込むのがいいだろう。では元の場所へかえしてあげよう”
そういったかと思うと、私は又、きつい目まいに襲われた。そして数秒後、その目まいが去ったとき、私は再び元の三角暗礁内の一室に戻っていたが、目の前には例の怪しい姿をしたX大使が、厳然と立っているではないか。
私は、はっと夢から覚めたように感じた。
「黒馬博士。どうも、ご苦労だった。君は、なかなかうまくやってくれたので、わしは悦んでいる」
「いやあ、ご挨拶、いたみ入る」
と、私は、くすぐったい返事をした。
実をいうと、私はあまりいい気持ではなかった。虎の威をかる狐という悪口があるが、それと同じ事をやってきたのだ。まことにやむを得ないことではあったけれど。
「X大使、これから、どうなるのかね」
「どうなるって、君の心配しているのは、米連主力艦隊のことであろう。うむ、いよいよ米連側は、高角砲をもって火蓋を切りだしたよ。おお、三千機の超重爆機から成る欧弗同盟のアフリカ第四空軍は、今、異常なる混乱に陥った。おお、空中衝突だ。不意うちをくって、空軍の損害はなかなか大きいぞ。いや、陣形がかわってきた。いよいよ敵意がはっきりしたようだ。これはますますやるぞ」
X大使は、じっと直立したまま、うわごとのように観戦光景を喋った。
「すると、不測の戦闘が起ったというわけですね」
「そうじゃ。これが、開戦のきっかけじゃ。たとえ間違いから起っても、これだけの戦闘が開始されると、ついに全面的大戦争に追いこまれる筈なんだ。……いや、米連主力艦隊が苦戦だ。あっけなくやっつけられては、こっちの計算に反する。どりゃ、ちょっと、向うへいって来る」
「また、向うへいくのかね、X大使」
「そうだ。わしは、これから出掛ける。じゃあ失敬。そのうちに、また会おうよ」
「うむ。まあ、気をつけていきたまえ」
「なに、気をつけていけって。あははは。人間じゃあるまいし、心配することなんか、何もありはしないよ。あははは」
X大使は、奇怪なる放言をのこして、かき消すようにその姿は見えなくなった。
“人間じゃない!”
かねて私は、X大使の身の上に、疑いをもっていた。彼は人間ではなさそうだと思っていたが、今彼は、わざとそういったのか、それとも不用意にいったかはしらないが、ともかく、
“人間じゃあるまいし……”と放言して、姿を消した。
人間でなければ、彼は何者ぞ?
四次元世界の生物?
或いは、四次元世界へ跳躍することを会得した超人であるかもしれない。
しかし、今のところ、彼はわれわれ日本の側に立って力を貸しているが、それが、私にとって最も合点のいかないところであった。
東京湾いずこ――空前の大激戦
世界情勢は、三転した。
米連対欧弗の戦争勃発が伝えられ、それが再転して、両国の握手となり、極東に対して共同作戦をとると見えたが、今また三転して、再び米連と欧弗とは、険悪なる関係に投げこまれ、すでに両軍の間には、激戦が展開されているようであった。
この間に立って、私は、何をしたらいいのであろうか。
私は、しばし静思をしたが、そのとき忽然として、脳底にうかび上ったのは、祖国日本の安否であった。
さきに、祖国との通信は、とつぜん杜絶してしまったのであった。あれほど、自分と堅い約束をした鬼塚元帥さえ私の電波に応じて、答えようとはしなくなった。しかも祖国から発せられる各種の電波信号は、悉く何者かによって、妨害されていた。だから、言葉をかえていえば、祖国日本は、いま行方不明であるともいえる。私は、この際、なにはおいても、祖国の安否を知るため、急行で引返すのがいいと思った。
(うむ、祖国へ帰ろう。ついでに、元帥に会って、親しくX大使の事件を報告しておく必要がある。もしも祖国へ予告もなしにX大使があらわれるようなことがあったとして、誰か取扱い方をあやまるようなことでもあれば、一大事だ。折角の味方が、敵になっては困る。しかも敵といっても、大敵なんだから……)
私は決意した。
「オルガ姫、快速潜水艇の修理は、出来あがっているのか」
私は久しぶりに、オルガ姫の名を呼んだ。
「はい。修理はすみました。いつでも、出動できます」
「そうか。では、すぐ出かけよう。日本へ急行するのだ」
「はい」
私は、「三角暗礁の日記」に、簡単に祖国への出発の次第を記して、この重宝な基地を、また立ち出でた。私たちは、また、狭くるしい魚雷型潜水艇の中に、横になった。
「出発します」
洞窟の壁がうごきだした。窓の外を、鱶がさっと通りすぎた。間もなく窓外は、まっくらとなった。三角暗礁を出たのである。
「全速力だ。そして、いつものところへつけるのだ。東京港の潜水洞へ!」
艇は、おいおいと速度をあげていった。海流にぶつかり加速度が不意に落ちると、ずきずきと頭痛が始まった。この潜水艇による大渡洋は、なかなか骨が折れる。
暫くいくと、水中聴音器から、気味のわるい振動音が聴えてきた。それは、いけばいくほど激しくなってきた。
「爆雷のようだが……」
私は、透過式の電子望遠鏡をひきよせて、はるかに音のする海底を見やった。
「ああ、爆撃だな、すると、あそこは、米連主力艦隊の位置であろう」
私は、電子望遠鏡を調整して、海面から上を覗いた。
「おう、やっているな。これは、空前の大激戦だ!」
なんたる壮観! 空中には、何千機とも知れず、さまざまの形をした飛行機が、入り乱れて闘っていた。そのあたり一帯は、無数の小さい雲の塊のようなものがとんでいる。それは、真下にあえいでいる米連主力艦隊が、必死となって撃ちあげている角砲の硝煙であった。
米連側は、艦載の快速戦闘機をもって、対抗しているらしいが、見たところ、欧弗同盟軍の方が優勢らしい。米連の艦隊は、煙幕の中に隠れているが、その半数は爆撃のため損傷をうけ、傾いている。惨状は、目を蔽いたいくらいだ。その中に、旗艦ユーダ号が、なおもひらひらと司令長官旗を掲げ、陣頭に立っているのは、むしろ悲壮な感じがした。この様子では、ピース提督も、間もなくユーダ号とともに、海底に沈んでしまうことであろう。
私は、両軍の大死闘をもっと見ていたかったが、それよりも祖国のことが心配になるので、興味あるその戦場を、ほんの十数秒の間にすりぬけてしまった。
それから一時間ばかり経った。もうそろそろ、東京港のシグナルが聞える筈であった。が、一向に、それが聞えない。そのうちに、潜水艇が急に速度をおとしてしまった。
「どうした、オルガ姫」
「たいへんです。東京港の潜水洞があった場所まで来ましたが、肝腎の潜水洞が見えません」
「場所がちがっているのではないか、よく探してみろ」
「いいえ、間ちがいなく此処なんです」
ああ日本国消滅か――潜水艦の針路を北へ修正した
東京港のシグナルもきこえなければ、艇をつけるべき潜水洞も見あたらない。私の胸は、早鉦のように鳴りだした。
「オルガ姫。一体これは、どういうわけだろうね」
私は、思わず、こんなことを口走った。
オルガ姫は、それに応えなかった。オルガ姫は人造人間だから、わけのわからぬことをたずねても、だめである。人間ならば、意見をいうであろうが、彼女には、それができない。
「弱ったなあ、どうすればいいのだ」
私は、潜水艇の中で、われるような頭を抱えて、呻吟した。
いい考えが浮かばない。不安の影が、ますます濃く、そして大きく拡がっていくのであった。祖国日本が、そのままそっくり、天外にとび去ったのではないかと、妙な錯覚を起したくらいであった。
三十分ばかり、私は、地獄の釜の中で茹でられているような苦しみを経験した。が、その後になって、多少気分がおちついてきたように思った。私はようやく考える力を取戻したのだった。
「そうだ。そのへんに、どこか上陸のできる場所があるはずだ。そこを探して、上へあがってみよう」
私は、オルガ姫に、新しい命令を出した。
「オルガ姫、上陸地点を探して、艇をそこへつけたまえ」
「はい」
艇のエンジンが、再び活溌にうごきだした。姫は、巧みに舵器をあやつって、上陸地点を探しはじめた。エンジンの音が、高くなったり低くなったりするのは、しきりに上陸地点を探しているのであった。
オルガ姫からは、なかなか報告が来なかった。私は、姫が故障になったのではないかと思い、
「おい、オルガ姫、お前は異常がないのか」
と、訊ねた。
「異常なしです」
「じゃあ、どうしたのか。あれから随分になるのに、まだ上陸地点が見つからないのか」
私は、自分でも、いらいらしているのが、よくわかった。
「はい。上陸地点が、どこにも見つからないのです。北は樺太までいきましたし、南は海南島から小笠原あたりまでいってみました。しかし、どこにも上陸地点は見当りませんのよ」
「それは、おかしいな。じゃあ、日本内地というものが、全然浪の上に出ていないということになるじゃないか」
私は、そんなことがあってたまるものか、と思った。
すると姫の答えは、
「いえ、そうなのです。日本のあったところは、すっかり何もなくなっています。有るのはただ洋々たる大海だけなんですわ」
「え、本当かい」
私は、胆をつぶした。日本内地の陸地が完全になくなってしまったというのだ。日本内地は、どうしたのであろう。空中へ吹きとんでしまったのか、それとも、海面下に陥没してしまったか。
「ああ、陥没! うむ、ひょっとしたら、そんなことがあったかもしれない」
私は、気がついて、直ぐさま、水中望遠鏡を目にあてた。
丁度夜であったので、視界は遠くない。赤外線をこっちから出して、目的物に当ててみるが、充分でない。しかし艇を、あっちへやったり、こっちへやったりしているうちに、ついに海面下に大きな要塞みたいなものが沈んでいるのを発見した。
それは、たしかにベトンらしいもので出来ていた。天然の岩礁でない証拠には、色も黄色であったし、そして簡単な幾何学的の曲面をもっていて、人工であることが、すぐわかった。
「おい、オルガ姫。艇の前に今見えている黄色い竜宮城みたいなものがあるが、あの地点はどこかね。つまり、日本の地図から探すと、あそこは、どのへんに当るかね」
「はい、あれは室戸崎付近です」
「なに、室戸崎だって。すると、四国だな」
私は、そこに起点を定めた。
「じゃあ、艇を、ここから東北東微東へ向けて走らせよ。いや、要するに、紀州の南端潮岬へ向けて見よ」
「はい。潮岬へ来ました」
「おお、もう来たか」
私は、室戸崎から潮岬までが、ベトンで、ずっと続いているのを発見して愕いた。
「オルガ姫、こんどは、東京へ向けてみよ。途中、富士山にぶつかるだろうから、その地点を忘れないで教えて、ちょっと停めよ」
「はい」
潜水艇の針路は、すこし北へ修正された。
不思議なベトン塔――とにかく東京までゆけ
「ここが富士山の位置です」
オルガ姫から注意されて、私は、また更に愕いた。
「富士山は、ここかね。山なんぞ、ありはしないが……」
どう見まわしても、富士山らしいものはなかった。このとき艇は、海面下わずかに一メートルのところを走していたのを、ぴたりと停めたわけであるが、このとき見えるのは、艇の下、約七、八メートルのところに、なんといったらいいか、恰も並べられた大きなパンの背中を見るような感じのするベトンだけであったのだ。やや凸凹はあるものの、山らしい形のものは、さっぱり見当らない。
「ふしぎだ、ふしぎだ」
私は首をふった。
「オルガ姫とにかく東京までいってみろ」
「はい」
東京へいっても、おそらく同じことであろうと思ったが、東京へついてみると、やっぱりそうであった。見えるのは、すべすべしたベトンの背中ばかりであった。
「ふうむ、やっぱり同じことだ。オルガ姫、艇をこのまま沈ませて、しずかに、あのベトンのうえにつけよ」
「はい」
艇の底は、まもなく、ベトンの上に触れた。微かな反動があった。
「しばらく、ここで休むことにしよう」
私は、ここでしばらく憩い、最前から解き切れない謎を、どうにかして、ここで解いてしまうつもりであった。
さあ、一体、祖国日本は、どうしたというのであろう。
私の観察したところによると、感じからいうと、日本の陸地が、化石になって(陸地が化石になるというのはおかしい云い方だが)、そして海底にしずんでしまったとでも云い現わしたいところだ。
その一方において、富士山がなくなり、その代りでもあるように、紀伊水道が浅くなってしまって、ベトンの壁が突立っているのであった。一体、どういうわけであろう。
わからない。さっぱりわからない。
あの夥しい日本人は、どこへいってしまったであろうか。鬼塚元帥は、どうなったであろうか。
わからない。さっぱり、わけがわからない。
私は、悶々として、二時間ばかり、そこに時間を過ごしていたであろう。
いくら、こうしていても、際限がないので、私は仕方なく、またもう一度、三角暗礁へ帰ることにしようと思った。謎は、ついに解けそうもないのであった。私は、オルガ姫をよぶために、伝声管を手にとって、新しい命令を伝えようとしたが、そのとき、オルガ姫の方が、私に呼びかけてきた。
「ベトンから、塔のようなものが、もちあがってきました。右舷前方、約十メートル先です」
「なに、塔のようなものが、もちあがってきた?」
ベトンは、墓場のようなものであろうと思っていたのに、今オルガ姫の知らせによると、そのベトンの背中から、塔のようなものが、もち上ってきたというのである。
私は、ひどい衝撃をうけて、目まいを感じた。しかしそれをやっと怺えて、水中望遠鏡に目をあてた。なるほどたしかに右舷前方十メートルばかりのところに、頭を丸くした小さい灯台のようなものが、むくむくとのびあがってくる。一体あれは何であろうか。
逃げるか、それとも、もっと傍によって、仔細に観察すべきであろうか。
私が、俄かに判断しかねていると、その水中塔の頭が、とつぜん、ぴかりと光った。それはうつくしい青緑色の閃光だった。
つづいて、ぱっぱっぱっと、三点閃光があった。私は、おやと思った。
そのうちに、こんどは真赤な光にかわった。その赤色光は、消えなかった。その代り赤色光は、いつの間にか橙色にかわった。
橙色になったと思っているうちに、今度は淡紅色に変った。――ここに於て、私は万事を察した。
「おい、オルガ姫。あれは、色彩信号だ。解読してくれ。ほら、例の暗号帳の第三十九頁に出ているあれだ」
私は、俄かに元気づいた。
色彩信号だ。この色彩信号というのは、さっきもちょっといったように、色彩の変化により、信号をつたえるもので、モールス符号よりも簡単で、且つ速く送ることが出来る。一分間に一万字は送れる。
だが、これは肉眼で見分けることは、ちょっとむつかしい。オルガ姫のような人造人間でないと、うまく受信が出来ない。
色彩信号は、近距離用のものである。四、五十メートルも離れると、何が何だか、わからなくなる。
さて、どんな信号を送ってくるか。いや、それにも増して、私が悦んだのは、鬼塚元帥との連絡がとれる見込がついたことであった。色彩信号は、ごく最近、鬼塚元帥が考え出した極秘の通信法の一つであった。それを使うかぎり、鬼塚元帥からの通信であると考えて、まず間違いないのであった。
ああ、鬼塚元帥と連絡がつけば、きっと私は、愕くべきニュースを受取ることになろう。
金星超人――海底にかくれた日本
色彩通信は、間もなく停った。
それとともに、水中塔は、ずぶずぶと、ベトンの中に沈んでいった。そして、そのあとは、平坦なベトン面となり終った。
「オルガ姫、信号の解読は、まだ出来ないのか」
私は、待切れなくって、催促をした。
「はい、もう五分間、お待ち下さい」
「早くやってくれ」
早くやってくれといいつけても、相手は人造人間だから、どうなるわけのものではないが、それにも拘らず、催促しないではいられない。私は、元帥が、なにをいって来たか、早く知りたくて仕方がないのだった。
「はい、解読を終りました」
「そうか。じゃあ、始めから、読んでくれ」
私は、胸をおどらせて、オルガ姫が、どんなことを読みあげるかと、それを待った。
「では、読みます。――鬼塚元帥は、黒馬博士坐乗の魚雷型快速潜水艇を認めて、博士の健在を大いに慶祝するものである」
「おお、そうか。想像していたとおり、やっぱり、鬼塚元帥からの通信だったか。それで、どうした。先を読め」
「――わが敬愛する黒馬博士に対し、甚だ遺憾なることなれども、余は博士を、当分の間、わが日本より閉め出すの已むなき事態に至れることを、謹みて通告する次第である」
「なに、日本より閉め出すというのか。オルガ姫、その先を……」
「――何故に、かくの如き手段をとるに至りたるかについては、余はその説明に、非常なる困難を覚ゆるものにして、まず劈頭において、わが日本国が、海面沈下したることを告ぐるなり」
「海面下に沈下したことは、知っている」
「――海面下○○メートルまでの陸地は、これを原子弾破壊機によりて、悉く削り取り、瀬戸内海をはじめ各湾、各水道、各海峡等を埋め、もって日本全土を、簡単なる弧状に改め、その外側を、堅牢なるベトンをもって蔽いたり」
「ほう、たいへんなことをやったものだ。とうとう原子弾破壊機をもち出したのか。なるほど、それを使えば、このような大工事も、極く短い時間内に、仕上がるだろう」
原子弾破壊機というのは、すこぶる強力なる機械である。今から三十年前、物理学者は、このような機械が、将来必ず出現するだろうと、理論のうえから推理をして、一部の世人を愕かしたものだが、それ以来、わが国では、新体制下の科学大動員によって、極秘に研究をつづけ、そしてようやく五年前、その最初の機械を試作したのであった。これはすこぶる能率のいい機械で、一端から一のエネルギーを加えると、他端からその三百倍のエネルギーが出てくるというすごいものであって、その原理は、原子を崩壊して、これをエネルギーに換えることにある。
ずっと昔は、科学力において、世界の第十何位かにあった日本は、新体制をとってから、めきめきと科学力を増強し、二十五年後には、右にのべた原子弾破壊機の第一試作品をつくり上げることに成功し、それからこっちへ五年、とうとう、世界に魁けて、強力なるその機械を十万台から整備するようになったのである。これを使えば、あの海抜四千メートル余もある富士山も、百台の機械でもって、わずか一時間のうちに、きれいに削り取られてしまうのであった。こんなことをいっても、三十年前の人間には、とても想像さえつかないであろう。
オルガ姫が、先を読んでいる。
「――かくして、わが日本は、外部より見て、完全に、要塞化したるばかりか、内部においても高度の要塞設備を有するに至りたるものにして、特に四次元振動を完全に反撥するように留意せられたり」
「四次元振動! はて、耳よりな話が出てきたぞ」
「――四次元振動の反撥装置は、かねて未来戦科学研究所において、研究ずみのものにして、これは凡そ百年ののちに役立つ見込みのものなりしが、最近急に実施の必要を生ずるに至りたるものにして、その理由は、実に、わが地球が、地球外の強力なる敵より、襲撃せらるる徴候見えしによる」
「地球外の敵? はてな、ではその敵というのは、あのX大使のことではあるまいか。オルガ姫、早く、その先を読め」
「――地球外の敵とは、実に、かの金星に住む超人のことなり。金星超人は、わが地球人類よりも、はるかに高度の文化を有す。その証拠の一をあぐれば、かれ金星超人は、四次元振動を発生するの技術を心得おりて、その怪振動を利用し、自己の姿を透明にし、いかなる鉄壁なりといえども、自由に侵入し来ること之なり。ああ、金星超人こそ、正に現代の恐怖の生物、宇宙の喰人種というも過言にあらざるなり」
「ああ、四次元振動か。なるほど、四次元振動で、海が見えなくなったり、鉄扉を透して侵入したり、ふしぎなことをして、私を愕かしたのか。すると、X大使というのは、金星超人だったというわけだな。ほう、おそろしいことだ!」
私は、急に、はげしい戦慄に襲われた。目の前が、まっくらになったように感じた。
怪! 四次元振動――博士の勲功