14話 山へ 二
読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
読み上げの速さ
組み方
特にこの表題に注意を引かれたのには、大きな原因がある。去年私は主として山に関する雑文を集め、『山へ入る日』という題をつけた小さい本にした。この表題に相似ている。私のこの本の名については、あるスマートな現代的青年が、「これは足下が山へ入るその日のことを意味するや、又は西へ沈む太陽を意味するや」と質問した。それは本を読めば判ることだから買って読み給え……と、私は答えたが、青年は単に会話を社交のために使用したものと見え、その後、本は買っていないらしい。
閑話休題、『山へ』の著者はアンソニー・バートラム、小説家で芸術批評家、『ソード・フォールス』『ペーター・パウル・ルーベンス伝』等の著述あり……と書いて来ると、如何にも調べ上げたようだが、これは同書のジャケットに書いてあることで、これだから本の上被い紙はやたらに棄てるわけに行かぬ。事実世間でいわゆる「物知り」なるものは、雑誌の広告や、新聞の切抜きや、あるいは往来でくばるビラみたいな物を沢山集め、他人が忘れたか、又は全然看過している種類のインフォーメーションを、豊富に持ち合している人間であるらしい。