おばけの正体

6話 おばけの正体 第六項 亡者の泣き声

704字 約1分 2016年6月5日 公開

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 先年の『読売新聞』に、東京両国回向院の墓場の間に、亡者の泣き声を聞きたる話が出ておった。ここにその一節を読み上げてみよう。

 近来、回向院卵塔場(らんとうば)辺りへ、白衣をまといたる年若き女の亡霊姿を現出することありとて、近傍の居住者、尾に(ひれ)をつけて風説するにぞ、夜更けには同院境内を通行するもの一人もなかりしが、境内居住者、掛け茶屋の主人某なるもの、一両日前の夜、二ツ目辺りよりの帰途、いまだようやく九時半ごろなりければ、かの幽霊の出ずる時刻にはよほど早し、表門へ迂回(うかい)するも面倒なれば近道をとらんと、松坂町一丁目横町裏門を入り、今しも本堂側を横切らんとしたるとき、(ねずみ)小僧墓所石構えの裏手に当たり、女の泣く声聞こえけるに、不審を起こし恐る恐る星の光にすかしてうかがい見れば、このごろの人の(うわさ)にたがわぬ幽霊なりしかば、さては十万八千の焼死人中、今に成仏せぬやからありと見えたりなど考えつつ、身を縮めてその場を逃げ去り、観音堂際なる同業者某方へ駆け込みて、ありし次第を告げ、幽霊なれば別に子細もなきことながら、万一自殺者などにもあらんには、明日の厄介面倒なり、いかがはせんとためらうところへ、同院台所男、足音高く通り掛かるを呼び止め、今みてきたれることを語りたるに、寺男はなにげなくうなずきつつ提灯(ちょうちん)携え、本堂南方、鼠小僧の墓所辺りを見回り、ほどなく某方に立ち戻り、「みなさん御安心なさい、幽霊は幽霊なるが、生きた、しかも年若の男女二人にて、連れの女が酒に酔い過ぎて歩行もできぬ始末に、男が介抱しておったのだ。二人とも、ツイ近所で見かける顔です」と告げ、大笑いにて済みたりと。

 いかに恐ろしき幽霊も、正体が分かれば笑い草となる。

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