おばけの正体

69話 おばけの正体 第六九項 本所の怪火騒ぎ

604字 約1分 2016年6月5日 公開

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 今より十四、五年前、東京本所に怪火(かいか)を現出せしことがあり、その当時の諸新聞にも掲げてあった。今『万朝報(よろずちょうほう)』の雑報の一節を抜粋せんに、

 本所には七不思議の名物ありて、とにかく昔は薄気味わるき土地なりしが、ここにまたある日の午後四時ごろ、深川区森下町より本所林町二丁目に架かりおる伊予橋上手の水面へ、突然青白き炎の二、三カ所チョロチョロと燃えあがり、風につれて前後左右へうごくさまに人々はきもをつぶし、ただ不思議不思議と騒ぎおるうち、たちまちこの(うわさ)は四方へ伝わり、われもわれもと伊予橋付近へ集まりしが、なんにしても開け放し木戸銭なしのことなれば、正直者の遠慮なしにドシドシと押し寄せ、見る見るうちこの界隈(かいわい)は人の山を築きて、途方もなき山水のパノラマを描き出し、人々この怪し火について種々なる評を下すうち、「これは全く深川の元木橋下にて、凶漢のため非業の最期を遂げたる二巡査の亡魂ならん」などと好きなことをいっているうち、午後六時半ごろに至り、同所につなぎおる肥船(こえぶね)、南葛飾郡葛西村の船頭音吉といえるが、実否をたださんとて船をこぎ寄せ、水竿にて水面をかき回したれば、そのまま火は消え失せ、これとともに人々四方へ散じて、またもとの伊予橋の光景となりし、云云(うんぬん)

 右の怪火は、石油船の油が流れ出したるを、何者か戯れに火を点じたのであろう。さなければ、近傍の(どぶ)より腐敗せる水が流れ出して、水素ガスを発したのであろうとの説である。

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