おばけの正体

85話 おばけの正体 第八五項 老鼬の怪事

520字 約1分 2016年6月5日 公開

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 猫の老いたるものすら怪をなすなら、(いたち)の老いたるのは一層怪事を働くべきである。仙台発行の『河北新報』に報ずるところを抄記して、その一例としよう。

 石城郡磐崎村岩ヶ岡という岩で固めた片山里に、御代茂という人住みけり。去りつる日の夜も宵暗(よいやみ)の七時半ごろ、所用ありて篠原という医師のもとまでゆかんものと、権現山の麓へ差し掛かりし折から、二歩、三歩前に身の丈六尺以上、顔の長さ一尺五寸、目は百練の鏡をかけしごとく、真っ白き歯をむき出してニタニタと笑い出だせる気味悪さに、茂は思わず提灯(ちょうちん)投げ出し、両手を広げてむんずと組みつきしに、ピカリ怪光一閃(いっせん)、耳辺をかすめてキュウと叫ぶとともに左手の母指へかみつきたれば、さてこそ妖怪御参なれと、えいえい声にて組み合いけれども、到底一人の力では捕らえきれねば、声を限りに救助を呼びしにぞ。最寄りの青年ら、なにごとぞと手に手に得物を押っ取りて()せ集まり、くだんの怪物を打ち倒し、草刈り鎌にて目をえぐられしかば、さすがの妖怪も力弱りてその場に倒れしゆえ、よくよくあらため見しに、年経し黒色の老鼬なりしに、人々アッと驚きしとぞ。

 世間の妖怪中にて、真の怪物とすべきはこのくらいのものであろう。その他は多く偽怪か誤怪である。

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