おばけの正体

86話 おばけの正体 第八六項 怪獣の退治

614字 約1分 2016年6月5日 公開

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 古寺に老いたる(てん)が住んで人を驚かせし例は、先年の『新潟東北日報』の雑報にても読んだことがある。

 越後(えちご)三島郡出雲崎なる不動山西方院とて、いと古代じみたる木彫地蔵尊を本尊となす、真言宗の古伽藍(がらん)あり。(のき)傾き壁くずるというほどならねど、位置が位置とて古木森々として昼さえ人足まれなれば、夜は一層もの寂しさ言わん方なきに、このほどよりその堂の後方にて、夜な夜な異様のなき声すとて大評判となり、住職渡辺某はじめ、必定(ひつじょう)世にいう化け物とやらんいう怪物ならんと、宵より(ふすま)を打ちかぶりて()すほどなりしが、ツイ四、五日前の夜のことなりとか、たまたま近所の若者十四、五名、一杯機嫌のおもしろ半分、今夜こそは西方院の化け物を退治しやらんと、手に手に(おの)(まさかり)棍棒(こんぼう)などを取りつつ、台所なる炉に榾柮(ほた)折りくべて団欒(だんらん)し、イザござんなれと待ち構うるとは知るや知らずや、夜も深々と更けわたる真夜中ごろ、果たして堂後に化け物の声すと聞くやいなや、一同スワこそと左右前後より滅多打ちにうちたたきたるに、なにものか手ごたえせるより、「手燭(てしょく)よ、松明(たいまつ)よ」と灯をよび照らし見れば、これなん、年久しく伽藍にすみし一老大貂にして、背中のみ黒くほかの三分の二は白く、一見ゾッとするばかりの怪獣なりしに、さすがは血気の若者ども、そのまま料理して下物(さかな)となし、酒は住職のおごりとなし、舌鼓して食い尽くせしとはなかなかの快談にこそ。

 世の天狗沙汰(てんぐざた)も、かかる話の増大したるのが多かろうと思わる。

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