三枚続

3話

1,295字 約3分 2012年4月8日 公開

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 愛吉は何にもいわず、腕を(こまぬ)いて目を(そら)して、苦言一針するごとに、内々恐縮の(うなじ)(すく)める。

 紋床は構わず棚下(たなおろし)

「活きるか死ぬかというこれが情婦(いろ)だったって、それじゃ愛想を(つか)しましょう、おまけにこれが()く先は、どこだって目上の親方ばかりでさ、大概(てえげえ)神妙(しんびょう)にしていたって、得て難癖が附こうてえ処でその身持じゃあ、三日と置く気遣(きづかい)はありやしません。もっとも三日なんて置こうものなら、はじめの日は朝寝をして、次の()は内をあけて、三晩目には持遁(もちにげ)をしようというもんだ。」

「まさか、」といって客の金之助は仰向(あおむ)けに目を(ねむ)る。

 愛は小指のさきで耳朶(みみたぶ)をちょいと()いて、

(ひど)いなあ、親方。」

「まあそういった形よ、人情は同一(おんなじ)だから、」

「何が人情、」

「そうじゃないか、だってお(めえ)真似(まね)をするにも()いことはしたがらねえだろう、この間もね、先生、お聞きなさいまし。そういう風だから山手(のて)も下町も、千住(せんじゅ)の床屋でまで追出されやあがって、王子へ()きますとね、一体さきさき(わたり)がついてるだけにこちとらの稼業はつきあいが難かしゅうがす、それだのにしばらく仕事をさしてもらおうというその初対面の(とこ)で、宿(しゅく)の中ほどの硝子戸(がらすど)をあけると、突然(いきなり)(わっし)あ忙しい身体(からだ)でござえして……とこうさ。

 どうです言種(いいぐさ)は、前かど博徒(ばくちうち)人殺(ひとごろし)兇状持(きょうじょうもち)挨拶(あいさつ)というもんです。それでなくッてさいこの風体なんですもの、懐手でぬッと入りゃ、真昼中(まっぴるなか)でもねえ先生、気の弱い田舎なんざ、一人勝手から抜出して総鎮守の角の交番へ届けに行こうというんでしょう。

 この頃は(ひま)だからと、早速がりを食って(やっこ)さん行処(ゆきどころ)なし、飲んだ揚句なり、その晩はとうとうお宮の縁の下に寝ましたッさ。この真似もまた宜しくねえてね。

 仕方がねえんで舞戻って例のごとく親方済みません、が呆れたもんです。そうして(わっし)が忙しい体でござえして、とこういう塩梅(あんばい)に遣ッつけました。目を円くして驚きゃあがって、可笑(おか)しゅうがしたぜ、飛んだ面白えやと、それを嬉しがっていやあがる、始末におえねえじゃアありませんか。それがまた似合うんです、ちょいとこんな風、」と紋床も好事(ものずき)なり、ばりかんを持ったままで仕事の最中。

「成程、」といって金之助も(わざ)とらしく振返った。

 愛は(きまり)悪げに、

「親方沢山だ、何も身振(みぶり)までするこたアありません。」と愛くるしい(くだん)の口許で、べそを掻くような(へ)の字(なり)

(わっし)にゃ素直だから可愛いんですがね。どうだこう改って言われちゃあ余り見ッとも()いこッちゃあるめえ、ちっと気をつけるが()いぜ、え、愛(こう)。」

「可いやさ、罷違(まかりちが)えばという(おぼえ)があるから世の中を何とも思わんだろう、中々可い腕があるんだっていうじゃあないか。片腕ッていう処だが、紋床の役介者は親方の両腕だ、身に染みて遣りゃ余所行(よそゆき)天窓(あたま)を頼まれるッて言っていたものがあるよ、どうだい。」

「へ、……どういたして、こうなると(わっし)(きまり)が悪い、」と(おもて)を背けて、たじたじになった罪の無さ。

「ここらで発起をするこッた、また三晩ばかしあけたというじゃあないか。あのここな、」というのがちと仮声(こわいろ)になりかけたので、この場合吃驚(びっくり)し、紋床は声を呑んでくすりと笑う。

「ですがね親方、今度ばかりゃ、」と愛吉は(きっ)真面目(まじめ)

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