三枚続

4話

1,334字 約3分 2012年4月8日 公開

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「どうした。」

「ええ、何ね、少し面白くねえ、馬鹿に(しゃく)なことがあって、腹が立って、(わっし)あ腹が立ってならねえんで、」と愛はいう内にもその迫った眉を動かすのであった。

 紋床は、しばしばあって、珍しからぬ、愛吉がかかる様子に()れて、いうことを何とも思わず、

「妙だな、お前また腹が立って為様(しよう)がないから、そこで身体(からだ)を寝かしていたろう。」

「親方、茶かさずにさ、全くだね、私あ何だ、演劇(しばい)でする(かたき)ッてものはちょうどこんなものだろうと思いますぜ、ほんとうに親の敵。」

()い気なことを言ってらあ、お(めえ)母親(おふくろ)は死んでやしねえじゃないか、父爺(ちゃん)の敵なら中気だろう、それとも母親(おふくろ)なら、愛(こう)、お前がその当の敵だい。」

「何だってね。」

「苦労をさせるからよ。」

「気が早いや親方、誰も権太左衛門に母親が斬られたとは言やしません、私あ親の敵と思う位、小癪(こしゃく)に障る(やつ)が出来たッていうんです。」

「はてな。」

「それでね、出来るものならふん(づかま)えて畜生撲殺(なぐりころ)してやろうと思って、こう胸ッくそが悪くッて、じっとしていられねえんで、まったくでさ、ふらふらして歩行(ある)いたんで。」

「待ちねえ、おい、お前感心だな、ははあ解ったい、そうするとお前は大望のある身体(からだ)だ、その敵討をしようという。」

「そうですよ。」と真顔でいった。

「そうですよもねえもんだ、何だな、それがために浮身を(やつ)し、茶屋場の由良さんといった形で酔潰(よいつぶ)れて他愛々々よ。月が出て時鳥(ほととぎす)()くのを機掛(きっかけ)に、蒲鉾小屋(かまぼこごや)刎上(はねあ)げて、その浴衣で出ようというもんだな、はははは。」

「ようがすよ、もう沢山だ、何もそんなに改って今日という今日、脂を取んなさるこたあねえ、食潰(くいつぶ)しの極道にゃあ生れついて来たんだもの、天道様だって数の知れねえ人形を(こしら)えるんだ、削屑(けずりくず)も出まさあね、」と正直なだけに怒りッぽい、これでもまだ若いんだから、愛吉は()ね気味で横を向く。

「ほい、気に障ったら堪忍しねえ、言ったって治らねえ位のこたあ知ってるんだい、言葉の(はずみ)よ、(おれ)だってまだ人に意見を言う親仁形(おやじがた)は役不足だ、()いや、喧嘩なら加勢をしよう、対手(あいて)は何だ。」

「そ、それがね親方、」とたちまち嬉しそうな顔色(かおつき)で、

「ちっと組合違いの人間でさ。」

「ふむ、船頭か。」

「いいえ。」

馬士(うまかた)か。」

「詰らねえ。」

「まさか乳母(おんば)どんじゃあるめえな。」

「親方、真面目に聞いておくんなさいというに。聞くだけで可いんだから、(わっし)あまた話すだけでもちったあ胸が透くだろうと思うんで。へい、ここの(とこ)へ込上げて来やあがって。」と手を懐にしたまま拡げた胸に(ななめ)にかかってる(まもり)(ひも)の下あたりを、はたはたと叩いて見せる。

()し可し、私が聞こう、どうしたんだ。」

「先生、聞いておくんなさるかい、難有(ありがて)え、こりゃ先生だとなほわかりが早い、対手(あいて)はね、先生なんざ御存じじゃありませんか、歌の師匠ですよ。」

 紋床は口を挟んで、

「ああ、中洲の清元の。なるほどこいつあ大望だ、親の敵より大事(おおごと)に違えねえ、しかし飛んだ気になったぜ、愛、お(めえ)ありゃあ不可(いけね)えや、まるで組合が違ってらあ。」

「何がえ、親方。」

「お津賀さんのことだろう。」

「ありゃ、師匠じゃありませんか。」

「唄の師匠よ。」

「何を、私なあ味噌一漉(ひとこし)てえやつなんです。」

「味噌一漉? ああ三十一文字(みそひともじ)か。」

「その野郎だ。」と、愛吉は胸を張った。

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