麻を刈る

4話 麻を刈る(4)

1,465字 約3分 2018年2月2日 公開

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 (なん)(たくみ)もないが、松並木(まつなみき)(あひ)宿々(しゆく/″\)山坂(やまさか)()け、道中(だうちう)風情(ふぜい)()(ごと)し。――これは能登(のと)越中(ゑつちう)加賀(かが)よりして、本願寺(ほんぐわんじ)まゐりの夥多(あまた)信徒(しんと)たちが、()(ころ)(ほとん)色絲(いろいと)()るが(ごと)く、越前(ゑちぜん)――上街道(かみかいだう)往來(ゆきき)した(おもむき)である。

 (はれ)(くもり)(また)(つき)となり、(かぜ)となり――(ゆき)には途絶(とだ)える――()往來(わうらい)のなかを、がた/\(ぐるま)も、車上(しやじやう)にして、悠暢(いうちやう)と、(はな)()(とり)()きつゝ(とほ)る。……

 (かゝ)(おもむき)()つたため、(わたし)一頃(ひところ)小遣錢(こづかひ)があると、東京(とうきやう)(まち)をふら/\と(くるま)歩行(ある)(くせ)があつた。淺草(あさくさ)でも、銀座(ぎんざ)でも、上野(うへの)でも――(ひと)往來(ゆきき)(みせ)(かま)へ、千状萬態(せんじやうばんたい)一卷(ひとまき)道中(だうちう)()織込(おりこ)んで――また内證(ないしよう)だが――大福(だいふく)か、金鍔(きんつば)を、(かね)(たもと)(しの)ばせたのを、ひよいと()る、()早業(はやわざ)太神樂(だいかぐら)(まり)(しの)ぐ……(たれ)()るまい。……(じつ)は、一寸(ちよつと)()りて蕎麥(そば)にしたい(ところ)だが、かけ一枚(いち)なんぞは刹那主義(せつなしゆぎ)だ、泡沫夢幻(はうまつむげん)、つるりと()える。俥代(くるまだい)差引(さしひ)くと(その)いづれかを(えら)ばねばならない(ふところ)だから、其處(そこ)餡氣(あんけ)で。金鍔(きんつば)二錢(にひやく)四個(よんこ)あつた。四海(しかい)(なみ)(しづか)にして(くるま)(うへ)花見(はなみ)のつもり。いや()うも(はなし)にならぬ。が()意氣(いき)(もつ)てして少々(せう/\)工面(くめん)のいゝ連中(れんぢう)(たれ)自動車(じどうしや)……(ゑん)タクでも()い。蕎麥(そば)(くひ)ながら()ばして()ないか。(こひねがは)くは駕籠(かご)二挺(にちやう)ならべて、かむろに掻餅(かきもち)()かせながら、鈴鹿越(すゞかごえ)をしたのであると、(をさ)まり(かへ)つたおらんだ西鶴(さいかく)(むか)うに《まは》して、京阪成金(かみがたなりきん)壓倒(あつたふ)するに()らうと(おも)ふ。……

 (とき)蕎麥(そば)()へば――(てい)と――(なし)。――(なん)だか三題噺(さんだいばなし)のやうだが、姑忘聽之(しばらくわすれてきけ)(てい)()ふのは、(かつ)て((いま)()うだらう。)(なし)()べると()ふと()ふ。()(やつ)があるものかと、(みな)(わら)ふと、「()ひますさ。」とぶつ/\()ふ。對手(あひて)にしないと「(ぼく)()ふと(しん)ずるさ。」と(ほゝ)(へこ)まして(はら)()てた。

 (わか)(とき)(こと)だ。(いま)では(かま)ふまい、(わたし)()(てい)二人(ふたり)で、宿場(しゆくば)でふられた。草加(さうか)(あめ)()つたのではない。四谷(よつや)()はづれで、二人(ふたり)とも(きら)はれたのである。

「おい。」

 と(てい)陰氣(いんき)(おこ)つた。

「こんな(かた)蕎麥(そば)()はれるかい。場末(ばすゑ)だなあ。」

 と、あはれや夕飯(ゆふめし)兼帶(けんたい)(だい)(ざる)(はし)()げた。()ものだと、(あるひ)はおとなしく(だま)つて()たらう。が、對手(あひて)がばらがきだから(たま)らない。

「……蕎麥(そば)(かた)いのは、うちたてさ、フヽンだ。」

 ()うだ、うちたての蕎麥(そば)は、蕎麥(そば)下品(げひん)では(だん)じてない。胃弱(ゐじやく)にして、うちたてをこなし()ないが(ゆゑ)に、ぐちやり、ぐちやりと、(つば)とともに、のびた蕎麥(そば)()むのは御勝手(ごかつて)だが、その(した)で、時々(とき/″\)作品(さくひん)批評(ひへう)などすると()く。――(さぞ)うちたての蕎麥(そば)(のゝし)つて、(なし)()つてる(こと)だらう。まだ(それ)勝手(かつて)だが、(かく)(ごと)量見(りやうけん)で、紅葉先生(こうえふせんせい)人格(じんかく)品評(ひんぺう)し、意圖(いと)忖度(そんたく)して(はゞか)らないのは僭越(せんゑつ)である。

 (わたし)怯懦(けふだ)だ。衞生(ゑいせい)(おど)かされて魚軒(さしみ)()はない。が、魚軒(さしみ)推重(すゐちよう)する。その(きら)ひなのは先生(せんせい)所謂(いはゆる)(しゞみ)(きら)ひなのではなくて、(しゞみ)(きら)はれたものでなければならない。

 (あさ)()ると(だい)したが、(つむ)()()ひもせぬ、これは浴衣(ゆかた)がけの縁臺話(えんだいばなし)。――

 (すこ)(すゞ)しく()つた。

 ()(あつ)さは()うです。……まだみん/\(ぜみ)()きませんね、と()ふうちに、今年(ことし)土用(どよう)あけの前日(ぜんじつ)から(とほ)くに()こえた。カナ/\は土用(どよう)あけて二日(ふつか)の――大雨(おほあめ)があつた――あの(まへ)()から()()した。

 蒸暑(むしあつ)いのが(つゞ)くと、蟋蟀(こほろぎ)(こゑ)待遠(まちどほ)い。……此邊(このあたり)では、毎年(まいねん)春秋社(しゆんじうしや)眞向(まむか)うの石垣(いしがき)一番(いちばん)(はや)い。震災前(しんさいぜん)までは、(たい)がい土用(どよう)三日(みつか)四日(よつか)めの(よひ)から()きはじめたのが、年々(ねん/\)、やゝおくれる。……()(あき)(おそ)かつた。

 それ、自動車(じどうしや)()たぜ、と(をんな)まじりで、道幅(みちはゞ)(せま)い、しば/\縁臺(えんだい)()つのだが、(くるま)(めづ)らしいほどである。これから、相乘(あひのり)――と()(ところ)を。……おゝ、銀河(あまのかは)()える――初夜(しよや)すぎた。

大正十五年九月―十月

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