○○獣

16話 陥穽

906字 約2分 2003年12月16日 公開

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「おーい! 消防隊」

 蟹寺博士は、すこぶる興奮のありさまで、向うに陣をしいている消防隊の方へ駈けだした。そして隊長らしいのをつかまえて、しきりに手真似入りで話をやっているのが見えた。すると消防隊は、にわかに活溌(かっぱつ)になった。大勢の隊員が、さらに呼びあつめられた。

「一体なにが始まるのかしら」敬二はそれが知りたくて仕方(しかた)がなかった。それで傍へ近づいていった。

 蟹寺博士は、地面に図を描いて、消防隊長に説明をしていた。

「いいかね。このとおりやってくれたまえ」

「ずいぶん大きな穴ですね。もっと人数を()さなきゃ駄目です」

 と、隊長の一人がいった。

「要ると思うのなら、すぐ手配をして集めてきたまえ。○○獣の生擒(いけどり)がうまくゆかなければ、この事件の被害はますます大変なことになるのだ。井戸掘機械なりとなんなりと、要ると思うものはすぐ集めてきて、早くこのとおりの穴を掘ってくれたまえ」

 蟹寺博士は気が気でないという風に、消防隊を激励(げきれい)した。

 その甲斐があってか、まもなく東京ホテルを中心として、その周囲に深い穴がいくつとなく掘られていった。

博士(せんせい)。こんなに穴をあけてどうするんですか」

「おう、敬二君か。これは陥穽(おとしあな)なんだよ。○○獣をこの穴の中におとしこむんだよ」

「へえ、陥穽ですか。なるほど、ホテルの周囲にうんと穴を掘って置けば、どの穴かに○○獣が墜落するというわけなんですね」

「そのとおりそのとおり」

博士(せんせい)、穴の中に落っこっただけでは駄目じゃありませんか。なぜって、穴の中で○○獣が暴れれば、穴がますます大きくなり、やがて東京市の地底(じぞこ)大穴(おおあな)が出来るだけのことじゃないんですか」

「うん、まあ見ていたまえ。(わし)の胸にはちゃんと生擒りの手が考えてある」蟹寺博士は、大いに自信のある顔つきであった。

 そのうちに穴はどんどん掘りさげられていった。千五百人の人が働いて、五十六の大穴が掘れた。もうあとは、○○獣が外へ出てきて、陥穴(あとしあな)におちるばかりであった。蟹寺博士はじめ大勢の見物人は、それがいつ始まるだろうかと、首を長くして○○獣の出てくるのを待ちわびた。

「おお、あそこから○○獣が出てきたっ!」敬二が突然大きな声で叫んで、ホテルの南側の窓下を(ゆびさ)した。

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