坊つちやん「遺蹟めぐり」

10話 〈下〉 三 桝屋と角屋

530字 約1分 2024年2月9日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

 ゆんべは、下の座敷で夜中迄、馬鹿騒ぎをやつてた為め閉口した。成金共の跋扈嘆ずるに余りありだ。自然、今朝寝坊して十時頃ぶらりと手拭をさげ湯に行く。神社のある台の崖の裡を廻つて浴館のある左側の町へ出る。ふと坊つちやんが山嵐と八日潜んで佞人共(ねいじんども)の隠れ遊びを見届けたといふ宿屋を想ひ出した。探す。洋館より町を少し下へくだる細い町並の角に名前も『坊つちやん』の中にある通りな角屋といふのがあつた。これが赤シヤツと野だとがしけ込んだ家と同じ名前だ。道後に於ける二流か三流どこの料理屋兼帯の宿屋だ。覗くと台所に小さな錨がつるしてあり鰆と章魚とが向き合つて顎を引つかけられて居た。

『坊つちやん』の文中に説明して『角屋の丸ぼやの瓦斯灯の下を睨めつきりである』の丸ぼやは角ぼやになつてる。その向側に即ち腕白両人が忍んで障子の隙から睨めて居た、文中、桝屋に当る宿屋は前にポストを控へ店の片側を郵便局にして居た。この辺の町並は宿屋で無ければ温泉みやげの伊予絣湯染手拭、砥部(とべ)焼、竹細工、猿の腰掛細工、湯の花、湯桁飴などを売る店だ。どの店にも店先に長方形の箱に山盛り赤砂糖のやうなものが積んであるので眼を寄せて見ると、あに、はからん哉、艾だ、艾もこう沢山あると食うものゝやうで美味さうだ。

目次に戻る

目次