雪柳

9話 七(2)

893字 約2分 2012年10月13日 公開

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あ、お燈明が、蛍が消えた。」

 手を取りました。

「私も消えとうございますわ。」というのです。

 ――(同好の怪談は、ここでお冬さんが幽霊になって消えるのか、と筆者(わたし)はまた思った、が、そうではなかった。)――

「私も消えとうございますわ。」

 と、お冬さんがいった時です。松をしぶいて、ざっと大降りになった。単衣(ひとえ)(あい)、帯の柳、うす青い(つま)、白い足袋まで、雨明(あまあか)りというのに、濡々と鮮明(くっきり)した。

「傘では(しの)げません、雨宿りに、この中へ消えましょう。」

 と、その姿で……ここは暗闇(くらやみ)だ。お聞きになるあなたの目に、もう一度故郷(くに)の一本松を思い浮べて頂きたい。あの松の幹をです。立上りはしないで、傘なりに少し屈腰(かがみごし)になって、その白い手で、トンと(たた)いたと思うと、蘭燈(らんとう)といいますか、かさなり咲いた芍薬(しゃくやく)の花に、電燈を包んだような光明がさして、金襴(きんらん)(ふすま)(にしき)(しとね)珊瑚(さんご)の枕、瑠璃(るり)の床、瑪瑙(めのう)の柱、螺鈿(らでん)衣桁(いこう)燎爛(りょうらん)と輝いた。

 覚悟をしました。たしかに伝来の魔法にかかった。下司(げす)と、鈍痴と、劣情を兼ね備えた(やっこ)として、この魔法にかからずにいられますか。

 その上に大酔悩乱です。――一度はいつか、二日酔の朝、胸が上下(うえした)跳上(はねあが)動悸(どうき)をうつと、仰向(あおむ)けに寝ていて、茶の間の、めくり暦の赤い処が血を噴いた女の切首になって飛上り飛下りしたのを忘れない。それにもました惑乱です。

 のめり込んで、錦爛の(なか)にぽかんとすると、

「一口、めしあがりますか。」

「何の事です、それじゃ狒々(ひひ)老耄(おいぼれ)か、仙人の化物になる。」

 と言ったんだから可恐(おそろ)しい。

 狸穴(まみあな)の狸じゃないが、一本松の幹の中へ入った気で居て、それに供えるという処から、入りしなに(びん)に詰めた白いのを、鼻頭(はなさき)で掻分けたつもりで居る。それが朦朧(もうろう)として、何だかお冬さんの懐の中へ、つまみ込まれたようだったものですから。……何にしろ魔法にかかった、いよいよ魔法に(かか)ったに相違ない。一口、というのさえ酒でなしに、魔法に限ります、かかり切りになっていりゃ申分はありません。」

 といって、肩のめりに、ぐったりと手を()いた。

 この獅子屋(ししや)さん、名も直槙が、くなくなになったから、余程(よっぽど)おかしい。

 いや、話は可笑(おか)しいのではないのである。

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