14話 中年者の幻想 八
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日曜と、病気でねている時とを除いて、一週間に十二回、僕は大木戸と有楽町の間をバスで通行する。市営、青バス両方の回数券を持っていて、さきへ来た方に乗るのだが、青バスには築地行があるので、同じ三円の回数券でも、自然市営バスの切符の方が早くなくなる。
僕は孔子様みたいに品行方正だが、それでも一週間に十二回乗るバスの車掌に、全然無関心ではあり得ない。往きには築地行のバスにばかり、復りには渋谷行のバスの方に、美しい車掌が乗っているような気がする。これはヒューマン・ネーチュアだ。
暖かになって一番有難いのは、二重廻しを着る人のへることである。二重廻しはパクパクして、公共の乗物に着て入るべき品ではない。坐れば両方にひろがる。その上に腰をかけると、たいていの人は怒る。立っていれば坐っている者の鼻さきを、袖が撫でる。元来和服、下駄等は、ひとりでブラブラなり、シャナリシャナリなり、往来を歩くには適しているだろうが、多数の人が乗る電車やバスに着て乗っては、他人は迷惑であり、当人にとっては危険である。