木枯

2話 昼

849字 約2分 2025年4月20日 公開

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 日のあたつた往還が水をかけられたやうに、さつとうす暗くなつたと思ふと、忽ち眼がさめたやうに明るくなる。木の葉が光つてとぶ。日光のなかを縞目をなしてとぶ。太陽の破片がとぶ。空が皺んで、その皺んだ空の一部が吹き捲られて、さつと地に落ちる。

 私は往還の方へ門(かど)の小坂を駈けおりてみる。

 黒い頭巾を被(かぶ)つた老婆が二人対き合つて立話をしてゐる。

「えらい風だな。もし。」

「ほんとにどえらえ風だ。」

「お前さんとこの隣の源坊は神かくしに逢つたちふ話だが、ほんとかな。」

「ほんとでなくつてどうするべい、えらえ事になつたもんだ、昨日の朝裏山に薪(もしき)をとりに行つてな……。」

「あのえらえ木枯にな。」

「さうだよ、あのえらえ風の日、源坊一人で燃し木を採りに行つたきり帰つて来ねえのでの、昼になつても、夕方になつても、影も見せねえでの。」

「それで、親達は騒ぎ出したんだな、無理はねえさな、親達の身になつてみれば、源坊は一人子だものな。」

「それで、昨夜(ゆうべ)は村から村へ、山から山へ提灯を十張(はり)も十五張(はり)もつけてな、太鼓を敲いたり、鉦を敲いたりして、村の衆が二三十人も出てからな、夜徹し大騒ぎして探したんだがな。今朝になつても到頭わからねえつて、一先づ村の衆は引上げて来たのさ。」

「親達はさぞ歎かつしやるだらうのう。」

「それは気狂のやうなものさな。」

「早く見附かればええがな。」

「とてもさ、神匿に逢つちや二日や三日ぢや帰りつこはないでな。」

「そのうちに、親達が諦めた時分に、髪の毛をほうけさせて、着物も何もかぎ裂きにでもして、ぼうつとなつて帰つて来ないものでもないでな。」

「どんなもんだかな、ほんとに可哀相なことをしたものだの。」

「ほんとにこんなえらい木枯の吹く日は天日(てんぴ)も薄れるつていふからな。どんな魔がささねえものでもねえだよ。」

「さうとも、さうとも、子供はこんな日に外にゐるもんぢやないでな。早く家に這入つてゐな。」と私の方を視て、独語のやうに言つた老婆の顔は、乾いた畑の土の色をしてゐた。

 私は急に怖しくなつて、わつと言つて家へ駈込んだ。

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