古事記 02 校註 古事記

13話 古事記 上つ卷 序并はせたり 〔根の堅州國〕

2,065字 約4分 2013年7月15日 公開

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 ここに八十神見てまた欺きて、山に()て入りて、大樹を切り伏せ、茹矢(ひめや)一をその木に打ち立て、その中に入らしめて、すなはちその氷目矢(ひめや)を打ち離ちて、()ち殺しき。ここにまたその御祖、哭きつつ()ぎしかば、すなはち見得て、その木を()きて、取り出で活して、その子に告りて言はく、「汝ここにあらば、遂に八十神に(ころ)さえなむ」といひて、木の國二の大屋毘古(おほやびこ)の神三の御所(みもと)に違へ遣りたまひき。ここに八十神()ぎ追ひ(いた)りて、矢刺して乞ふ時に、木の(また)より()き逃れて()にき。御祖の命、子に告りていはく、「須佐の男の命のまします()堅州(かたす)國四にまゐ向きてば、かならずその大神(はか)りたまひなむ」とのりたまひき。かれ詔命(みこと)のまにまにして須佐の男の命の御所(みもと)に參ゐ到りしかば、その女須勢理毘賣(すせりびめ)出で見て、目合(まぐはひ)して五婚()ひまして、還り入りてその父に白して言さく、「いと麗しき神來ましつ」とまをしき。ここにその大神出で見て、「こは葦原色許男(あしはらしこを)の命といふぞ」とのりたまひて、すなはち喚び入れて、その(へみ)(むろや)六に寢しめたまひき。ここにその(みめ)須勢理毘賣(すせりびめ)の命、蛇のひれ七をその夫に授けて、「その蛇()はむとせば、このひれを三たび()りて打ち(はら)ひたまへ」とまをしたまひき。かれ教のごとせしかば、蛇おのづから靜まりぬ。かれ(やす)く寢て出でましき。また來る日の夜は、呉公(むかで)と蜂との(むろや)に入れたまひしを、また呉公(むかで)蜂のひれを授けて、先のごと教へしかば、(やす)く出でたまひき。また鳴鏑(なりかぶら)八を大野の中に射入れて、その矢を採らしめたまひき。かれその野に入りましし時に、すなはち火もちてその野を燒きらしつ。ここに出づる所を知らざる間に、鼠來ていはく、「内はほらほら、()はすぶすぶ九」と、かく言ひければ、其處(そこ)を踏みしかば、落ち隱り入りし間に、火は燒け過ぎき。ここにその鼠、その鳴鏑(なりかぶら)()ひて出で來て奉りき。その矢の羽は、その鼠の子どもみな喫ひたりき。

 ここにその(みめ)須世理毘賣(すせりびめ)は、(はふり)(もの)一〇を持ちて哭きつつ來まし、その父の大神は、すでに()せぬと思ほして、その野に出でたたしき。ここにその矢を持ちて奉りし時に、家に率て入りて、八田間(やたま)の大室一一に喚び入れて、その(かしら)(しらみ)を取らしめたまひき。かれその頭を見れば、呉公(むかで)(さは)にあり。ここにその妻、(むく)の木の實と赤土(はに)とを取りて、その夫に授けつ。かれその木の實を咋ひ破り、赤土(はに)(ふく)みて(つば)き出だしたまへば、その大神、呉公(むかで)を咋ひ破りて唾き出だすとおもほして、心に()しとおもほして(みね)したまひき。ここにその神の髮を()りて、その室の(たりき)ごとに結ひ著けて、五百引(いほびき)(いは)一二を、その室の戸に取り()へて、その(みめ)須世理毘賣を負ひて、すなはちその大神の生大刀(いくたち)生弓矢(いくゆみや)一三またその天の沼琴(ぬごと)一四を取り持ちて、逃げ出でます時に、その天の沼琴樹に()れて地動鳴(なりとよ)みき。かれその(みね)したまへりし大神、聞き驚かして、その室を引き(たふ)したまひき。然れども椽に結へる髮を解かす間に遠く逃げたまひき。かれここに黄泉比良坂(よもつひらさか)に追ひ至りまして、(はるか)(みさ)けて、大穴牟遲(おほあなむぢ)の神を呼ばひてのりたまはく、「その汝が持てる生大刀生弓矢もちて汝が庶兄弟(あにおとども)をば、坂の御尾に追ひ伏せ、また河の瀬に追ひ(はら)ひて、おれ一五大國主の神となり、また宇都志國玉(うつしくにたま)の神一六となりて、その我が女須世理毘賣を嫡妻(むかひめ)として、宇迦(うか)の山一七の山本に、底津石根(そこついはね)に宮柱太しり、高天の原に氷椽(ひぎ)高しりて一八居れ。この(やつこ)」とのりたまひき。かれその大刀弓を持ちて、その八十神を追ひ()くる時に、坂の御尾ごとに追ひ伏せ、河の瀬ごとに追ひ撥ひて國作り始めたまひき一九。

 かれその八上比賣は先の(ちぎり)のごとみとあたはしつ二〇。かれその八上比賣は、()て來ましつれども、その嫡妻(むかひめ)須世理毘賣を(かしこ)みて、その生める子をば、木の(また)に刺し挾みて返りましき。かれその子に名づけて木の俣の神といふ、またの名は御井(みゐ)の神といふ。

一 クサビ形の矢。氷目矢とあるも同じ。

二 紀伊の國(和歌山縣)

三 家屋の神。イザナギ、イザナミの生んだ子の中にあつた。ただしスサノヲの命の子とする説がある。

四 既出、地下の國。

五 互に見合うこと。

六 古代建築にはムロ型とス型とある。ムロは穴を掘つて屋根をかぶせた形のもので濕氣の多い地では蟲のつくことが多い。スは足をつけて高く作る。どちらも原住地での習俗を移したものだろうが、ムロ型は亡びた。

七 蛇を支配する力のあるヒレ。ヒレは、白い織物で女子が頸にかける。これを振ることによつて威力が發生する。次のヒレも同じ。

八 射ると鳴りひびくように作つた矢。

九 入口は狹いが内部は廣い。古墳のあとだろうという。

一〇 葬式の道具。

一一 柱間の數の多い大きな室。

一二 五百人で引くほどの巨石。

一三 生命の感じられる大刀弓矢。

一四 美しいりつぱな琴。

一五 親愛の第二人稱。

一六 現實にある國土の神靈。

一七 島根縣出雲市出雲大社の東北の御埼山。

一八 壯大な宮殿建築をする意の常用句。地底の石に柱をしつかと建て、空中に高く千木をあげて作る。ヒギ、チギともいう。屋上に交叉して突出している材。今では神社建築に見られる。

一九 國土經營をはじめた。

二〇 婚姻した。

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