十和田湖

13話 一三 蛇脱穴

564字 約1分 2021年6月10日 公開

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都よりの路伴なる百穗に別れ、三本木の川崎氏とも別れ、われひとり大久保徳治郎氏と共に、馬車に乘りて、その所有の大理石の山に赴く。其の子徳五郎氏、同じく行く。中學の一年生也。身體小にして可憐なる少年也。父は剛骨あり。子は、神經少し敏に過ぐ。對照面白し。車を通ぜざるに及びて、徒歩して其の山にいたる。大理石を掘り出す樣を見て、番小屋に入り、酒肴を饗せらる。昨日は紅樓、今日は山奧の掘立小屋、場所が變れば、酒の味も變りて、面白く感ぜらるゝ也。大久保氏は、長谷川英治、野呂彦太郎、福井助五郎の三氏と共に、こゝに大理石採取を企てて、日なほ淺し。福井助五郎氏在り。その説明する所によれば、こゝの大理石の如き大材を得るは、他に其の比稀れ也。一箇年百萬切を採取するも、百箇年以上繼續するを得べしとぞ。

 小屋を辭して、蛇脱穴にいたる。物の本にあらはれたるもの也。溪流、石灰石の大巖を貫きて流る。長さ十間、水の深さ腰を沒す。洞中を水の流れ居るが、一風かはりて面白き也。更に閉伊穴にいたる。立ちてゆくを得べし。幅は、せまし。忽ち上り、忽ち下る。十間ばかりにして引返す。穴に入ると知らば、火を用意して來たるべかりし也。

 馬車に迎へられて、八戸なる大久保氏の家にいたり、大いに饗せらる。浦山老人も來たる。爛醉して旅館にかへりしは、既に十二時を過ぎたりけむ。

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